松本紹圭さん(43):僧侶。世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤンググローバルリーダー。最近の趣味は、息子との山登り(撮影/横関一浩)
松本紹圭さん(43):僧侶。世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤンググローバルリーダー。最近の趣味は、息子との山登り(撮影/横関一浩)

さしみ:確かに、人は状況によっても変わりますよね。先日ディズニーランドに行ったんですが、誰かに手を振ったら振り返してくれる。だけど、日常で知らない人に手を振ったら、「変な人」ってなるじゃないですか。

 品川駅の長い通路は、スマホを見ながら速足で歩いている人が大勢いて、私は360度見渡して車椅子でチョロチョロ隙間を縫っていく。それが視界に入っていなくて、私めがけて歩いてきた人が上から降ってくることもあります。それで舌打ちをされたりして。絶対、ディズニーでは起こらないことですよ。

■「我慢しているから」

松本:現代社会には他者を思いやるより、お金や結果だろうという思い込みが強くあって、それによって自我が成立している人が多いなと思います。

 私は、日本で最も普及している宗教は、“我慢教”“努力教”だと思う。「私はこんなに頑張っている」「我慢をしているから、ここにいていい」。その謎の呪縛が強いほど、ヘイトに向かいやすくなる。ヘイトは言っている人の悲鳴だと思います。

さしみ:それは感じます。最初は批判を正面から受けとって、悔しいし悲しかった。でも、いまはこの人は自分自身にこの言葉を投げつけているのかな、と。

松本:これから先、社会は我慢教がほどけていく流れに向かうと思います。我慢ではすでに社会が持たないですから。ただ、過去の意識にしがみついて生きている人たちもいる。そこをどう解きほぐしていくかが僧侶の仕事かと思っています。ただ、誰も誰かを変えることはできないし、自分で意識を変えていくしかない。意外かもしれませんが、ブッダは修行は仲間とするもので、誰とするかが大切だと言っています。みんなでどうやっていくかだと思います。

さしみ:私もこれからも、メディアを通して伝えていきたいです。少し話は変わりますが、友人が予約してくれた居酒屋に行ったら、3階にあって階段しかなくて、お互い爆笑して「ごめん」みたいなことがあったんです。障害より前に個人のパーソナリティーがあって、当たり前にそこにいるというか。私はいい意味でインクルーシブの成功かなと思ったんです。

松本:一緒にいるということが大切なのかもしれませんね。

(構成/編集部・井上有紀子)

AERA 2023年5月29日号