
松本:私も「税金払ってないだろ」と言われて、けっこう傷つくことがあります。僧侶だって普通の市民として、納税しているんですよ(笑)。
知らないことを知っていくのに、終わりはないですよね。ある意味、掃除に似ている。終わりのない掃除なんて目的志向が強いほどモヤモヤするし、すっきりしない。私も含めて、寿命が延びても人間は気が短い。耐えられないと感じる人も多いのかもしれません。
さしみ:「そっか、知らなかったよ」「ありがとう」って言いあえるといいなと思いますね。
■私も8時間働く会社員
さしみ:一方で、障害者に対するバイアスはまだ根深いと感じます。いまだに「仕事もしないで、税金で飯を食っている」と書き込まれることもあります。私も毎日8時間働く会社員です。そして、私はデザイナーで、その書き込みをしている人のUI(ユーザーインターフェース)は私が作ったUIなんですけど(笑)。
先日の発信で、思った以上に差別やヘイトは根強いと感じたんです。「障害者には何もしたくない」とか、私の見た目に対して「怖そうだから近づきたくない」という反響もありました。ネットではトゲのない言葉は刺さらないことはわかるんですが、ヤフコメは特にひどくて、友人が「あなたがこんなふうに言われているのが悔しい」と泣きながら電話をくれました。
松本:さしみちゃんの友人が心配したり応援したりしているように、身のまわりの人との間にSNSで言われるほどのヘイトがあるかというと、少なくとも私は感じません。SNSには増幅装置的な側面もありますよね。
昨年、『希望の歴史』の著者、ルトガー・ブレグマンと対談しました。性悪性についての言説があふれているが、人間はそこまで悪いものではないと丁寧に論じた本です。ただ、社会的な生き物であるがゆえに、集団として悪い噴出の仕方をするときもある。たとえば、日ごろ私たちが触れているニュースは、殺人事件や災害、起こってほしくない悪いことであふれていて、「たんぽぽが咲きました」という内容ではない。それにずっとさらされていることもあると思います。