AERA 2023年5月22日号より
AERA 2023年5月22日号より

「配偶者が相続する資産の評価額が1億6千万円までなら、相続税が課されないという制度です。1億6千万円を超えても、配偶者の法定相続分までであれば、やはり課税されません。だからといって、安易に配偶者がすべてを相続してしまうと、二次相続で法定相続人の数が少ない場合に税負担が重くなるケースが出てきます」(河合さん)

 しかも、遺産が非課税枠にとどまる家庭であっても、とかく相続はトラブルの火種となりやすい。すっかり「争族」という言葉が定着していることが象徴的だ。河合さんはこう語る。

「亡くなるまで身の回りの世話をしていたお子さんが本人に代わって、親御さんの口座から治療費や介護費などを引き出すケースは珍しくないでしょう。ただ、その使途が不明確であると、相続発生後に他の兄弟姉妹から不平不満が生じがちです。実際、親御さんの口座から継続的に資金を引き出し、こっそり自分名義の貸し金庫に貯め込んでいたという事例も見受けられました」

■諸手続きに疲弊

 そういった極端な例はともかく、相続人が複数存在する場合は遺産の分け方を巡って大なり小なりの不公平が発生しやすい。相続税の申告は、相続の発生(被相続人の死亡を知った日)の翌日から10カ月以内に済ませなければならない。それまでに、すべての相続人が遺産分割協議に合意する必要があるのだ。

 そのうえ、相続以外にも数多くの手続きが遺族を待ち受けている。煩雑な作業に追われて気疲れしていると、ちょっとした見解の不一致が大きな揉め事に発展しかねない。被相続人に関わる様々な手続きの中でも、特に遺族の手を煩わせているのがデジタル絡みのものだという。

「最近は暗号資産(仮想通貨)も相続財産として見受けられますし、銀行や証券会社などとの取引をインターネット上で行うケース(ネットバンクなど)が増えています。口座へログインするためのIDやパスワードが不明で、保有している金融資産の内訳や残高がすぐには判明せず、困っている遺族が少なくありません」(同)

 相続には直接関係しないが、いわゆるデジタル遺産の整理・処分も遺族を疲弊させがち。具体的には、所有していたパソコンやスマートフォンなどの情報端末や、クラウドサービス上に保存している写真や動画、文書などのデータだ。IDやパスワードが不明で情報機器やSNSにアクセスできず、詳細を把握するのに骨を折っているようだ。(金融ジャーナリスト・大西洋平)

AERA 2023年5月22日号より抜粋

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