
――男性のテストステロンが減少してしまう原因は何でしょうか。
テストステロンの分泌量は30代でピークになりますが、もともと個人差が大きく、加齢が原因で下がるものではありません。男性更年期障害は年齢に関係なく起こるのです。仕事に達成感が感じられず、コミュニティの中でも孤立していると、テストステロンの値は減少します。やはりストレスが大敵で、交感神経が活性化すると、テストステロンは下がります。習慣的な飲酒、喫煙、夜更かししてスマホのゲームをすることも下げる要因になります。
医学上では、テストステロンの低下によって引き起こされる様々な症状をを「LOH症候群(男性の性腺機能低下症)」と呼び、医師の治療を必要とするケースがあります。
――どんな症状が現れますか。
何をするにも意欲が湧かない、集中力がない、肩や腰が痛い、異常な発汗、頭痛などです。筋肉量が減って中性脂肪やコレステロールの代謝が低下し、内臓脂肪が増え、メタボリックシンドロームになりやすくなります。糖尿病や高血圧など生活習慣病になるリスクも高めます。
また、強い不安感に襲われることもあります。なぜかというと、恐怖や不安といったネガティブな感情に関わっている脳の偏桃体の作用を、普段はテストステロンが抑え込んでいるからです。ですから、テストステロンが下がってくると、うつ病と同じような症状が現れるのです。
うつ病と診断された患者さんのうち、抗うつ薬が効くのは3分の1程度といわれています。精神科や心療内科を受診することも大切ですが、精神医療的なアプローチで効果が見られない場合、泌尿器科に患者さんが送られてくるケースが増えています。例えば、休職しているとか、出勤はしていても能力が発揮できない「プレゼンティズム」の状態になるなど、社会活動ができなくなってくると、治療が必要になります。
――治療法は?
注射などでテストステロンを補充するのも一つの方法です。職場に行くのがつらい、苦痛だというような場合は、テストステロンを上げることによって、社会に対する視野が広くなり、心にゆとりが生まれます。ただし、最も重要なのはテストステロン補充療法ではなく、患者さんにとって心地いいことは何か、を発掘していくことです。患者さんの話に耳を傾け、例えば職場が楽しくないのであれば、家庭や友人関係、コミュニティの中で楽しみを探すことはできないか、などを相談するのです。
インスリンを足してやれば糖尿病が治るのではないことと同じで、テストステロンを足せば問題が解決するというものではありません。私のところに来る患者さんで、補充療法を行うのは半数程度です。あとは漢方薬などを補足することで回復できます。