当時、美智子さまの国際児童図書評議会(IBBY)での講演録『橋をかける──子供時代の読書の思い出』(すえもりブックス)がベストセラーになっていた。その装丁を担当したのが安野さん。司馬遼太郎さんの「街道をゆく」の挿絵を手掛けていた安野さんと美智子さまの縁の始まりは、92(平成4)年。すえもりブックスから出版された『どうぶつたち』だった。
まど・みちおさんの詩を美智子さまが英訳、安野さんが絵を描いた。出版後、関係者を集めた茶話会が御所で開かれたのが初対面。その日、安野さんは「恋の歌」の話をしたそうだ。すると美智子さまは、「読みます……恋の歌はいいですね」。美智子さまのIBBYでの英語の講演のことは、「わたしにはよくわからなかったが、口の悪いデーブ・スペクターがその英語を絶賛していたところから考えても、すばらしい講演だったことが知られた」と書いていた。
私の一番好きな話は、「携帯電話と美智子さま」だ。安野さんは、美智子さまが携帯電話を持ったらいいのにと思う。実家や友人と直接つながれば、真情を吐露できるから、と。だが、美智子さまが買いにいくわけにもいかないだろうと思う。そこで安野さん、さしあたって「私の携帯を差し上げてもいい」と美智子さまに申し上げた。料金は自分に回ってくるが問題ない、とも言ってから少し考え、海外にかけると「高く請求されますけど」と付け足した。すると美智子さま、「海外にもかけますわよ」。
キュートな美智子さま。入江さんに感じた「親しい人の温かな視点」が重なった。楽しい美智子さまを、安野さんはたくさん紹介してくれた。
■試行錯誤して「心を寄せる」
2009(平成21)年4月17日号は、ご成婚50年記念号。「結婚の儀」のあとの上皇さまと美智子さまが表紙となった。
巻頭グラビアは新婚時代の美智子さまのファッション特集で、そこに渡邉さんの文章が載っていた。おしまいあたりにこうあった。「『世紀のご結婚』から50年、おふたりの生涯のテーマは、昭和天皇の負の遺産である先の大戦で亡くなった方の慰霊と鎮魂です」