結成して16年目を迎えたロックバンド・サカナクション。新型コロナウイルス禍で行動が制限されるなかでも、オンラインライブなどを通して精力的に活動を続けてきた。
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今年3月、ボーカル、ギターを務める山口一郎さんは初の単著を発売。デビュー前にインターネット上に書き綴った散文をこのタイミングで単行本化した背景には、父親の強い勧めがあった。著書への思いや突発性難聴、群発性頭痛などの病とともに生きることで得たもの、「早く老後になりたい」と語った真意まで、インタビューした。
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――初めての単著『ことば:僕自身の訓練のためのノート』を発売しました。デビュー前にインターネット上に書き綴っていた散文をまとめたものですが、なぜデビュー前のものをこのタイミングで出そうと思ったんですか。
経緯をお話しますと、本を出すことを強く勧めてきたのは父親だったんです。僕は2000年くらいから、ある種のトレーニングとしてインターネット上に言葉を書き続けてきました。それを父親が見つけて、「眠らせておくのはもったいない」「書籍化できないか」と言い始めたのがきっかけです。
最初は書籍化に反対していました。幼少期からたくさんの本に囲まれて育ってきたので、そういった先生方と同じ土俵に自分が並ぶというのはおこがましいことだと思っていました。ただ、父親の熱意があまりにもすごくて。「青土社さんからどうしても発売したい」と言うんですよ。
――出版社まで明確にイメージされていたと。
僕も『ユリイカ』という雑誌をよく読ませてもらっていたので、青土社であれば販売してもいいかなと思いました。でも、僕はまったく関与しません、とも言いました。青土社と父親とで完成させてほしいと伝えたんです。なので、ここに載っている詩のセレクトは一切やっていません。ただ、装丁だけはやらせてほしいと、サン・アドの葛西薫さんにお願いして、デザインしてもらいました。
――それで、先日代官山蔦屋でお父様との対談イベントをされていたんですね。
そうなんです。僕、ちっちゃいころから英才教育ではないですけど、父親から「1カ月でこれだけの本を読め」「次はこれだ」って読書教育を受けていたんですね。僕にとって父親と母親はある種の先生みたいな存在で、その父親に昔書いた詩をいいと言ってもらえたことがすごくうれしかった。それも出版に踏み切った動機としてありますね。
――読書教育を受けてこられて、書店に行けば当時読んだ文豪たちと同じように山口さんの本が並んでいます。本づくりを通して、本へのこころもちは変わりましたか。
今は電子書籍もあるじゃないですか。僕は1980年代生まれなので、思春期をオフラインで過ごしたんですよ。ちょうど二十歳ぐらいからインターネットが出てきて、音楽の聴かれ方も書籍の読まれ方もどんどん変化していった。もともと物質としての本の質量みたいなものがあるとは思っていたんですけど、今回改めてその質量みたいなものを感じ取れました。あと、初回限定版は全部活版印刷なんですよ。
――ファンクラブ会員限定で発売したものですよね。ページの印刷も活版なんですか?
全部活版印刷で、すごくないですか。いいですよね。こうしてこだわると、本の質量みたいなものが増えるじゃないですか。音楽もやっぱりそうで、某音楽番組に出演したときに、ひな壇に座って周りを見渡したら、自分たちで曲を作って自分たちで歌っているミュージシャンが僕らだけだったことがあるんです。
もちろんそれぞれボーカリスト、歌手として音楽の質量を持っていらっしゃるんですけど、自分で作って歌う質量というのは異質で、他とは違った重みがあると感じたことがあります。そう考えたときに、たとえば活版印刷で書籍にして、父親が発売したいと思ったというストーリーも含めて、一つの重みみたいなものを感じられたのはよかったなって思います。