――映画などを倍速で見るのも珍しくなくなって、「タイパ社会」なんて言われたりもします。そうなると深度は伝わるのだろうかとも思ってしまいます。特集のなかでは、伊丹十三の「スーパーの女」(1996年)も好きな作品としてあげています。
僕、伊丹十三監督作品が全部大好きで、なかでも「スーパーの女」が好きなんです。今の時代では、イオンやジャスコが出てきて、スーパーって衰退していくものじゃないですか。「スーパーの女」では商戦や不正とかも描いたりしているんですけど、それがすごい面白くて。当時スーパーっていうものがいかに人々の生活のなかに根付いていたのかもわかる。何度も見ています。
――どんなときに見たくなるんですか。
どんなときだろう。さびしいとき。さびしいときに見たくなりますね。伊丹十三作品、見られたたことありますか?
――「マルサの女」しかないんです。
見たほうがいいですよ。「タンポポ」もおもしろい。ラーメン屋の話で、伊丹十三は「ラーメンウエスタン」って言っていましたけど、全作品すごく面白いですよ。
伊丹さんは役者で、コピーライターで、イラストレーターでもあったんです。伊丹一三の名前で活動されて、マイナスをプラスに変えるんだと名前を十三に変えた。そして、51歳で映画監督になられた。僕は今42歳で、いつか自分も映画を撮ってみたいと思ってるんです。伊丹さんの監督デビューと同じ年齢で、山口”十”郎にして撮ったら面白いかな、なんて考えたりします。
――そのときは取材させてください。
ぜひぜひ(笑)。それもやっぱり名だたる映画監督の方がいるなかで、自分ごときがおこがましいって今は思うんです。撮るときになったら勉強して、しっかりと経験して、挑戦したいです。
――山口さんはどんな映画を撮られるんでしょう。理系的なものを発揮されるのか、でも感覚的なものも大事にされているし。
どうなんでしょう。まず経験を積まないといけないと思っています。今は簡単に撮れるし、編集できるじゃないですか。いくつか自主制作で作ってみたり、一度大学とかに行って学んでみるのもいいかなって思っているんです。
ただ、そうできる状況にミュージシャンとして持っていかないといけないですよね。今はまだ療養中で、いろいろと考える時間がありますけど、完全復帰して今までのようなスケジュールになったなかで、はたしてそう考えられるかっていわれると。早めに老後を過ごしたいですよね(笑)。
――老後ですか?
僕、40代で老後になりたいんですよ。そのために今がんばっているって感じですけど。早く老後になりたい。
――老後に映画を撮りたい、と。
はい。早くドロップアウトしたいんですよ。
――世の中がそれを許さないかもしれません。
サブスクリプションですごくいいなと思うのが、CD文化のときってデイリーやウィークリーでどれくらい売れるかっていうのが勝負だったんですよ。でも、サブスクリプションはどれくらい長く売れ続けるかが指標になる。一曲がすぐに売れなくても、10年かけて100万枚売れればよかったりするわけですよね。
そう考えると、本当にいいものを作ろうというマインドで音楽と向き合えるというか。今評価されるものじゃなくて、5年後10年後に評価されればいいっていうものを作るときのマインドって全然違うんですよ。僕らは年齢的にもちょうどそういうマインドに移り変わるタイミングだったので、時代がちょうど合ってきたというか、ラッキーだなって思っています。
今売れるもの、今流行るものって作っていくと、どうしても忘れられちゃうんですよね。ずっと忘れられず、濃く愛されること。当たり前なんですけど、それがしやすい時代が来たような気はしているので、早く老後を迎えられそうだなと思っています。
(構成/編集部・福井しほ)
※AERAオンライン限定記事