──あの「渦」のお話。現在はどう捉えていらっしゃいますか。
「いやもう、本当に渦の中に入っていますね」
──「縁」ではなくて?
「もう世界中が渦ですよ。どこへ行っても渦がある。ああ人間って馬鹿だなあ、せっかくみんながこうやって暮らしてるところを、そこは俺の国だったんだから出て行けと。言うだけならいいですよ、でも、女子どもも年寄りも、学校から病院から何から爆撃して壊して、自然も壊して。そんなことをする権利が誰にあるんだって、バカ野郎と思う。プーチンにはプーチンなりの腹に据えかねることがあるんだろう。でも誰かの都合で、そっちの話は報道されない。ロシアが酷(ひど)いというより人間が酷いんですよ」
──すべてプーチンのせいだなんて、そんな簡単な話であるはずがない。
「どこか裏のほうで喜んでる人間がいるんですよ。しめしめ、もっとやれ、はい、これ使って、とかね。戦争は人類だけでなく、自然を壊し、動物も殺していく。人間は地球上にはびこる癌(がん)だと思います。最近中国がロシアとウクライナや、いろいろな紛争の仲介役になろうとしているようにみえるけれど、本当なら日本こそが世界中の『渦』を収める役割を担ってほしいんだけれど。なかなか難しいけどね」
──日本では、その中国に対する敵意が煽(あお)られまくっています。
「お互いがもっと褒め合えばいいのにねえ。中国も日本には迷惑をかけられたけど、戦後はいろんな援助もしてくれた、と。『吾唯知足(われただたるをしる)』って言葉がありますね。ご飯が少ししかない時に、もっと欲しいじゃなくて、いま、ここにあるものに感謝する。世界のみんなが、特に国のリーダーたちが少しでもそういう気持ちになれれば、戦争はなくなりますよ」
──僕はあの、民主主義国対権威主義の戦いだ、なんて自分を棚に上げたスローガンが許せない。日本も米国も、どんどん権威主義に近づいている。
「そうね。そういうところが渦なんですよ。われわれ年寄りがいま思うことは、日本だけじゃなく、この地球を、どうにかして元のきれいな地球に戻し、子孫に残してあげたい、平和な地球に住まわせてあげたいなあということ。人間の存在のために地球も宇宙も汚してるなんていうのは、すごく人間として恥ずかしいし辛いです」
──ありがとうございました。
「ハリスの旋風、大事に読んでくれて、ありがとね」
――はいっ!
(ジャーナリスト・斎藤貴男)
※週刊朝日 2023年5月26日号