旧統一教会の欺罔(ぎもう)的な入信勧誘や多額の献金要請などが反社会的なものとして報じられることや、自民党議員への選挙協力などの報道内容が事実に反しているとか、評価が間違っているというのであれば、誤りを指摘し、反論すればよいことだ。旧統一教会と国会議員との関係を取り上げること自体が、山上容疑者の意図を実現し、「犯人の思う壺」になるなどとして、差し控える理由は全くなかった。
「犯人の思う壺」論は、全く通用しないものなのだが、旧統一教会問題で、自民党議員や安倍氏自身と教団との関与が具体的に指摘され、自民党や岸田政権に対する批判が高まる中で、それを抑えようとする唯一の理屈とされた。自民党や安倍支持者側、それを支持する論者の中で、根強く主張され続けたのである。
●郷原信郎(ごうはら・のぶお)
1955年生まれ。弁護士(郷原総合コンプライアンス法律事務所代表)。東京大学理学部卒業後、民間会社を経て、1983年検事任官。東京地検、長崎地検次席検事、法務総合研究所総括研究官等を経て、2006年退官。「法令遵守」からの脱却、「社会的要請への適応」としてのコンプライアンスの視点から、様々な分野の問題に斬り込む。名城大学教授・コンプライアンス研究センター長、総務省顧問・コンプライアンス室長、関西大学特任教授、横浜市コンプライアンス顧問などを歴任。近著に『“歪んだ法"に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)がある。