社会の耳目を集める事件であれば、犯行動機に関連する事実、被害者に関する事実について、詳細な報道が行われることが多い。犯行動機につながった被害者側の行動がセンセーショナルに報道され、それが過熱することもある。それは、時に、死者の名誉を害し、犯人にとっては犯行の目的実現を一層高めることになるが、それが「犯人の思う壺」だと言って、報道が差し控えられることはない。

■全く通用しない論理

 殺人の動機となった「恨み」が、被害者個人ではなく、被害者が所属する、或いは関連する組織に対して向けられたものである場合、構図は若干複雑になる。その場合、「恨みを晴らす」という動機の中に、当該組織の悪事を「告発」し、その事実を社会に晒すことが含まれることもある。

 この場合、まず問題となるのは、犯人が「組織に対する恨み」を抱くに至った事情、その恨みを逮捕・処罰を覚悟してまで晴らしたい、当該組織の問題を社会に明らかにしたいと思うだけの「組織側の悪事」が実際にあるのかどうかである。そして、もう一つ重要なことは、そのような「組織に対する恨み」が、なぜ被害者「個人」への殺意に向かったのか、それが、了解可能なものなのかという点である。

 それらは、犯行動機に関する重要事実として当該事件の刑事裁判で認定されることになるので、捜査の段階でも十分な証拠収集、事実解明が行われる。社会の耳目を集める事件であれば、それらの点に関して、様々な方法で取材が行われ、裁判で明らかになる事実を先取りする形で報道が行われることになる。

 山上容疑者は、旧統一教会という組織に対して恨みを抱き、最も影響力の大きい「旧統一教会の関係者」である安倍元首相を殺害することによって、旧統一教会に対する恨みを晴らし、その悪事を社会に晒したいという目的で犯行に及んだとされている。

 そのような山上容疑者の犯行動機に関する供述を裏付ける事実があるのかどうか、つまり、「旧統一教会」側に山上容疑者自身やその家族に対する「悪事」が実際にあったのか、それがどの程度のものだったのか、捜査によって解明が進められる。また、そのような「旧統一教会への恨み」を安倍元首相に向けた理由が了解可能なのか、合理性があるのかについても、鑑定留置によって、山上容疑者の精神状態について精神医学に基づく分析が行われる。

暮らしとモノ班 for promotion
大人のリカちゃん遊び「リカ活」が人気!ついにポージング自由自在なモデルも
次のページ
旧統一教会へのお墨付き