両親の介護は人生の中でも避けて通れないもののひとつ。だが、介護休業や介護休業給付金などの公的制度があるにもかかわらず、利用者は対象者の10%に満たない。その原因は、企業にも利用者にも「誤解」があるからだという。ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の井戸美枝氏が制度の正しい理解を解説する。(朝日新書『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』から一部を抜粋、再編集)
【一覧】賃金の67%が給付されるケースも! 知らないと損する「介護サービス」
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高齢社会白書(令和4年版)によると、75歳以上になると要介護認定割合が約32%と大きくなります。誰が介護をしているかは配偶者約24%、同居の子・子の配偶者約28%です。厚生労働省の雇用動向調査によると2020年に介護離職をした人は約7.1万人でした。男性は約1.8万人、女性は約5.3万人と女性のほうが多くなっています。性別・年代別に「介護・看護離職」の割合をみると、男性は「65歳以上」、女性は「55~59歳」で最も高くなっています。
50代にさしかかると、会社内での「着地点」も見えてきます。これ以上、出世する見込みがないのであれば、「60歳の定年退職時まで会社に居続けなくてもいい」と、離職に踏み切ってしまうケースもあるのですが、退職後も働き続ける場所、つまり再就職先が見つかっていないと、子ども自身が老後破綻に陥る可能性が高くなってしまいます。親を看取ってから40年、人によっては50年ぐらい自分の長い老後が待っています。
中高年の再就職は困難で、コロナ禍の今、サービス業などでは急に人手が足りなくなったと思ったら、感染者の急増とともにお客さんが激減して、人手が余るというように、不安定な状況が続いています。業種によっては労働力の需給バランスが安定せず、思うように仕事が見つからないこともあります。
60歳で定年退職を迎えてから再雇用で65歳まで働き続けたほうが、子どもの老後破綻のリスクは回避できます。
■「要介護状態」の誤解
介護休業、介護休業給付金などの「家族介護者のための支援制度」がありますが、大和総研が2019年1月9日に発表した「介護離職の現状と課題」では、介護休業制度やそれ以外の時短勤務などの利用含めても8.6%しかありません。