右が専用のハウジングとレンズポートが気に入り、水中をメーンに撮影しているオリンパスE-520IS。オリンパスE-5ISは、八ケ岳など山を撮っている。ほかにコンパクトのオリンパスTG-820を水中のサブカメラとして使用。またオリンパスのレンズが生かせるため、最近オリンパスOM-Dも購入したという
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石垣島バンナ展望台で夜8時ごろ、フィッシュアイ16ミリF3.5で約30分露光。満月で空が明るく、眼下には市内の明かりが写り込み、昼と夜が一緒になったような不思議な写真だ
石垣島の近海、水深7~8メートルで撮影。水面からの光を生かして、群れる魚たちと地形がダイナミックに写しだされている

――カメラとの出合いは?

 小学生のころ、修学旅行用に買ったレンズ付きフィルムが最初です。高校では写真部に入りましたが、インスタントカメラやトイカメラを使ってました。構図はちゃんと考えて撮っていたんですが、カメラの機種や機能のことはよくわかっていなかった。意識が変わったのは大学生のとき。「写真が好きそうだから」と当時交際中だった妻が、ニコンのコンパクトデジカメをプレゼントしてくれたんです。それで撮っているうちに欲がでた。ちょうどダイビングを始めたばかりで、水中写真をやってみようと思いついたんです。

――いきなり高いハードルですね。

 水中撮影はむずかしいと聞いて、これは挑戦しがいがあると(笑)。すごい写真を撮りたいとつねづね思ってましたからね。ダイビングショップの店員に相談したら、水中で撮れる一眼レフならと、オリンパスE-520をすすめられた。これが、初めて自分で買った本格的なカメラ。ほかのメーカーのはボディーが大きくて、初心者向きではない。E-520がコンパクトで扱いやすく、当時、純正では唯一ハウジングを出していたんです。

――使ってみてどうでしたか?

 海の色がびっくりするほど鮮やかに出て、「これがオリンパスブルーか」と実感しました。水中撮影は、おもに石垣島などの八重山諸島、あとは沖縄本島です。ケーブ(洞窟)やV字型に切りたった谷などダイナミックな地形が好きで、そこに光が差しこんだところをよく撮ります。砂浜に近い、淡色のリーフ(浅瀬)もいいですね。

 いちばん気を使うのは、光の使い方。マクロ撮影では必ずストロボを使いますが、広角で地形を撮るときはだめ。コントラストが出ないうえに海中のにごり、マリンスノーまでくっきり写ってしまう。それで回り込んだり、俯瞰やアオリを利用して、自然光がきれいに当たっているところを粘り強く探します。仕上がりがちゃんと予測できないと、いい写真って撮れないと思うんです。実際そこにあるプランクトンやゴミを撮らないのはある意味、嘘を並べることかもしれないけれど、肉眼では見えないわけでしょう。その場にいた人が「きれいだな」と思ったものにフォーカスして、初めて見た人が「行ってみたい」と思うような写真をめざしています。

 E-520はレンズごとに専用ポートがあるので、基本の標準レンズ50ミリ、フィッシュアイ16ミリ、マクロ35ミリと使い分けています。毎年一つずつレンズを買い足しているので、当面、オリンパスとは縁が切れそうにありません(笑)。最近、ステップアップしてE-5を買ったんです。E-520に不満があるわけではないんですが、もう少し高機能のカメラがほしくなり、E-5はフラッグシップ機ですし、レンズがそのまま使えますからね。おもに冬山の撮影に使っています。山に持っていくなら、つくりが堅牢なE-5のほうが絶対安心。記録媒体の容量も全然違うので頼りになります。

――伝統芸能の家元という立場でカメラはどんな存在ですか?

 カメラは完全にプライベートのものです。能の公演数が少ない8月と2月が撮影シーズン。夏は海、冬は山、標高差がありますね(笑)。撮影はいつもひとりで出かけ、能のことは忘れて、アマチュアカメラマンの気分になっています。北海道の国道沿いを何十キロも歩いたり、ライダーズハウスに泊まって現地の人と話したりしていると、別の人生を歩んでいるみたいで楽しい。カメラを持っているときは、「いきあたりばったりで、楽しければいいかな」って気負わずにいられるんです。

※このインタビューは「アサヒカメラ 2012年11月号」に掲載されたものです

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