坂元は2年連続地方大会決勝で敗れた悔しさを晴らそうと、スライダーを決め球に、打者に応じて組み立てを変える頭脳的投球を見せる。一方、関東屈指の本格派・中里は、自慢の直球を低めに集め、力でねじ伏せる。両投手とも再三走者を背負いながらも要所を締め、試合は1対1のまま延長戦に突入した。

 10回表、春日部共栄は2死満塁から4番・島田健一が痛烈なピッチャー返しの打球を放つ。ところが、これで勝ち越しか?と思われた直後、ボールは「気付いたら、グラブの中に入っていた」(坂元)。

 高校入学直前に母を癌で亡くした坂元は、病室で母が最後まで握りしめていたお守りを常に身に着け、「母が楽しみにしていた甲子園に連れていきたい」と心に誓っていた。そんな思いが天に届いたような結果オーライだった。

 ピンチを脱した浦和学院はその裏、先頭の坂元の四球を足場に2死一、二塁とサヨナラのチャンス。中里も絶対の自信を持つ直球で勝負する。だが、外角低めを狙った球がわずかに真ん中寄りになった。けっして失投ではなかったが、3番・丸山亮太は気迫で中前に弾き返した。

 島田が本塁に渾身のストライク返球を見せたが、捕球時にファンブルした分タイミングがずれ、わずかに早く二塁走者・坂元の左手が本塁ベースをタッチした。

 サヨナラ負けの直後、中里は信じられないような表情でグラウンドにひざまずいたまましばらく動けなかったが、気持ちを切り替えると、「あの球を打たれたのは、相手の力が上だったから」と素直に結果を受け入れた。

 勝利した浦和学院・森士監督が「島田君の打球は、たまたま坂元のグラブに入った。丸山の打球はたまたまセンターに抜けただけ」と評したように、まさに紙一重の戦いだった。

 甲子園に出場した坂元は、1回戦の八幡商戦で大会タイ(当時)の19奪三振を記録した。

 2年続けて神奈川大会で投げ合いを演じたのが、桐光学園・松井裕樹(楽天)vs横浜・柳裕也中日)だ。

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桐光学園・松井裕樹 vs 横浜・柳裕也の“決着”は?