地方でプロレスの試合をすると、切実な問題がある。それがトレイ問題だ。地方の体育館で試合をすると、そもそもトイレの数が少なくて、選手と会場に来ているファンが同じトイレを使うことがザラだ。ジャイアント馬場さんがトイレに行こうものならファンがついて来ちゃって落ち着いてできない。だから馬場さんはいつも便秘になっていたんだ。ホテルで大きいのが出ると「一週間ぶりに出た。ああ、スッキリした」とよく言っていたよ。

 一度、地方の会場のトイレで大元司さんが入ってくるなり「臭えな! 誰だよ、クソしてんのは!?」って言ってね。そしたら個室から馬場さんに「俺だよ、クマ。この野郎」って言われて、大熊さんは大慌てで「すみません!!」って謝って、用も足さずに出て行っちゃった(笑)。

 地方では体育館だけでなく野球場でも試合をすることがあって、こっちのトイレ問題も大変だ。特に外国人レスラーはトイレがどこにあるかわからず、ジプシー・ジョーが「トイレが無い」といって野グソしたことがある。野球場の外の原っぱで済ませて立ち上がったジプシー・ジョーの姿を見つけたファンの子どもたちが「なにしてるの~?」と着いて行ってね。ジプシー・ジョーは怒って子どもを追いかけまわしていたよ。今でも野球場の外をウロウロしている彼の姿を思い出す(笑)。

 俺も2015年の引退試合の前の試合が、地方の古い体育館でね。選手も客もトイレに入り乱れて大変だったよ。まあ「これが地方巡業だよな」って、最後の最後に初心に返ったことを覚えている。レスラーにとってトイレ事情はとても重要な問題だと分かってくれたかな? って、こんな話、日曜の朝から見たら、みんなに顰蹙買うだろ!?(笑)

(構成・高橋ダイスケ)

天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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