
■いまの時代の音楽家に必要なスキルとは
廣津留さんの仕事は演奏や作曲だけにとどまらず、会社としてさまざまな事業を行っていた。
「演奏活動のほかには、会社の事業として音楽家のマーケティングサポートもしていました。これはジュリアードで学んだことが大きかったですね。
私が修了する直前に新しく就任したジュリアードの学長は、もとニューヨーク・シティ・バレエ団のプリンシパルでした。個人的にとても興味があったので、『ジュリアードジャーナル』という学校新聞の編集部に頼んでインタビューさせてもらったのですが、プリンシパルを務めた後にハーバード・ビジネス・スクールで学ぶなど、まさに芸術とビジネス、両方の専門性を持っている方でした。
ジュリアードではほかの音楽院に先駆けて、アントレプレナーシップやセルフブランディングなどの授業を行っていましたし、新しい学長は、ヨーヨー・マや著名なアーティストに学校のロビーで演奏してもらい、どうやって人を楽しませるかなど実践的な部分を身をもって学べる機会を設けるなどの教育改革をされていました。こうした考え方にとても共感する部分があったので、私も会社の事業として音楽家のマーケティングやブランディングのサポートに取り組むことにしました。
子どもの頃から練習漬けの生活を送ってきた演奏家は、いざ、プロとして活動するときに、自分をどのようにブランディングすればいいのか分からない人も少なくありません。
そこでSNSをどうやって活用すればいいのか、どのように自分をアピールして演奏の機会を増やすかなど、YouTubeなどで成功しているジュリアードの先輩のノウハウなども教えてもらいながら、データを集めて、ほかの音楽家のサポートを行っていました。
もちろん、私自身も勉強中ですが、これからの音楽家は演奏技術だけではなく、どうすれば一人でも多くの人に演奏を聴いてもらえるか、どうやってビジネスに繋げるかといったアイデアやスキルも磨いていかなければいけないのかもしれませんね」
(構成/奥田高大)