朝日ジャーナル1986年12月26日号
朝日ジャーナル1986年12月26日号
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 安倍晋三元首相銃撃事件を機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政界の癒着が次々と明るみに出ている。そもそも旧統一教会が話題に上ったのは1980年代。印鑑や壺(つぼ)などを高額な値段で売りつける「霊感商法」が社会問題となった。そのきっかけとなったのが1986年に「朝日ジャーナル」が始めた霊感商法追及キャンペーンだった。当時、問題視された旧統一教会による霊感商法とは、どのようなものだったのか――。ここでは、朝日ジャーナル1986年12月26日号に掲載された記事を紹介する。

※以下に記載された年齢、所属、肩書きなどは、すべて当時のまま

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 吸血鬼に取りつかれた犠牲者がバンパイヤーとなり他人の血を吸うようになる――西洋の伝説にすぎないが、霊感商法にはそんな不気味さがある。宗教者と称する小鬼たちは、他人の預金を吸い尽くしたあと、いま住んでいる家と土地とを狙い始める。資産家につきまとうその執念をみると、良心から遠くへだたった集団の姿が浮かびあがる。 

●事例
資産数十億円の老人と同居する若い女は何者か

 東京都大田区の住宅街に、名物のおばあさんK子さん(80)がいた。うっそうと樹木の茂る家に20匹近いと、1匹の犬とともに住んでいた。皇居の歌会始めに応募し、当選したことのある教養人として町内会で尊敬されていた。「奥さま」と呼ばなければ返事をしないような、気位の高いところがあった。

 昨年1月、K子さんが肺炎にかかり、入院した。その前後から身辺にL子という女性が出没し始めた。30代前半だった。L子をK子さんに紹介したのはかつてのK子さんのお手伝い(70)だが、この人の話によると「L子から印鑑と壺を売りつけられ、もっと買えといわれて困った。独り暮らしのかわいそうな老人がいるとK子さんのことを紹介したら、そちらに移って行った」という。

 K子さんも印鑑を買った。病状が回復に向かった4月、K子さんは「猫屋敷」と呼ばれていた1000平方メートル近い自宅を売った。一説によると売値は3億6000万円だったという。5月、K子さんは退院し、二階建ての家の二階部分の四部屋を借りて住んだ。

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