K子さんの訴訟相手である社長の実子はいう。「K子には父名義の会社の株式が、正当な相続分だけ行くでしょう。それが第三者に流れたりすると、わが社の資産に影響してきます」。別の近親者はK子さんがL子を指して、「この人に財産をあげます」といったと話す。

 K子さんはさる8月、二階の間借りから、一戸建ちの借家へ引っ越した。家賃は25万円だという。ところが最近変な事態が起きた。K子さん宅の玄関に不動産屋が立ちはだかり、大声で家賃の滞納を責めているのをかなりの人が耳にしている。ではK子さんは自宅を売った金を失ったのだろうか。

 K子さんを直接訪ねた。若々しい、上品なおばあさんだった。彼女は「そのお金は銀行の通帳とハンコを親戚にまかせていたら、うんと引き出された。あと税金を払ったらパーでした」といった。L子については「親戚ではなくて、宗救関係の人です。私が動けないから、銀行やら税金やら、回ってくださるだけ」と答えた。宗教については、統一教会とは関係ないといい、何を信じているかという質問には口を閉ざした。

 不動産契約破棄同意書にL子が残した住所をたどって川崎市に行った。丘の斜面の高級住宅街に、番地の該当する1軒があった。灯火の暗い家だった。青年が1人出てきて、L子については「私はその人を知らない。しかし帰ってくるかもしれないので、あなたの連絡先を」と戸惑いがちにしゃべった。靴箱の上には大理石の壺、玄関口には男物の靴四足、女物の靴二足が脱ぎすてられていた。原理運動の「ホーム」と呼ばれる家とそっくりの雰囲気だった。

●事例
「神に捧げよ」と父祖の田畑を売るよう迫られて

 N子さん(23)は小さいうちに父母を相次いで亡くした。残された父名義の田畑を人に貸して、広い農家にきょうだいと寄り添って暮らしてきた。東日本の山に囲まれた一地方である。

 N子さんの体験談によると、「霊感商法」の淵に落ちたのは今年の早春。きっかけは、学生当時の友人からの電話である。

「人生などを学ぶ場」と誘われて、どんな組織かわからぬままにビデオセンターというところへ通い出した。宗教的なビデオを見たあと、先輩たちが真顔で話してくれる霊界の話に、次第に興味をひかれた。「気楽に書いてね」と、アンケートの記入を求められることもあった。趣味などに混じって、さりげなく貯金の額を問う1項目があった。

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