しかし、きょうだいたちは父名義の遺産の分割に強く反対した。N子さんは、説得のため何度も電話をかけた。横にはOさんがつきっきり。電話口の向こうの親族の言葉をN子さんが卓上でメモする。それを見て、Oさんが黒衣のように返答を助言するメモをよこした。

 N子さんは終始Oさんに親族の状況を報告していた。Oさんはまたそれを「店長」と呼ばれる、グループ内の経済活動の責任者に報告していた。親族の強硬な反対にN子の気持ちがくじけそうになると、「店長」からOさんを介して「勝利しろ」との叱咤が下った。

 きょうだいたちを何度か直接訪れもした。一度はトーカーを連れて行ったこともある。トーカーは「土地には因緑が、ひいては悪霊がつく場合もある」などと得意の“霊能”ぶりを発揮したが、そんな理屈が、きょうだいたちに簡単に通用するはずもなかった。

 そうこうするうち、きょうだいら親族側が巻き返しに出た。N子さんは逆に説得され、統一教会こそが誤りだ、と考えるに至った。N子さんは晩秋、ホームを抜けた。巨額の献金計画はすんでのところで幻に終わった。

※朝日ジャーナル1986年12月26日から

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