先輩の中にOさんという素敵な女性がいた。「自分もあんな人のようになりたい」と、あこがれに似た気持ちを抱いた。そのOさんがある日いった。「私の知っている偉い先生が近くに来られるの。すどく忙しい方なんだけど、ぜひ会ってみて」。

 連れて行かれた旅館には壺や多宝塔が飾られていた。壺から火の出る、異様な内容のビデオを見せられている間にOさんは一度、奥へ消えた。

 N子さんの前に、黒いロングドレス姿の先生が現れた。Oさんが、深くおじぎをするように、とN子さんを促した。いかにも霊能者らしく、きりっとした感じのその先生は、家系図を見てこう告げた。「先祖の因縁のために、あなたは夫に恵まれず、子孫も苦しむことになります」。

「亡くなったお母さんは今、地獄の底で苦しんでいます」。さとすような一言、一言が奇妙に的確にN子さんの心の痛点を射当てた。

「あとで私も壺展などの接待係をやらされるようになって裏側を知りました。最初客にビデオを見せるのは、その間に勧誘者が先生役と相談するためなんです。あの時、消えたOさんは私の性格や家系上の問題、悩みなどについて、『トーカー』と呼ばれる先生役の人に事前説明をしに行っていたんです」

 もちろん当時は知る由もない。「因縁を切るには命がけじゃないとできません」という先生の言葉に動揺し、「いいえ、命がけといっても出家をすればいいの。そのために持っている物を全部捨てなさい」という見透かしたような二の句にホッとした。「貯金は?」「全部神に捧げられるわね」。たたみかけて来る迫力に、ついうなずいてしまっていた。結局250万円で大理石の壺2個を買った。金はOさんに渡した。

「この時の『先生』と、何カ月かあとに偶然再会したんです。やはり同じ集団がやっている展示会場で。そこでは彼女は霊能者ではなく、単なる売り子をしていました。あれ? とは思ったけれど、もうその時は私にも裏表があることが大体わかっていたので、特にショックは感じなかったけれど……」と、N子さんは振り返る。

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