それから、近所の人の目をひくようなことが起き始めた。L子が姪というふれ込みでよく泊まるようになった。そのL子が30代半ばのM子を連れてきた。M子はお手伝いさんとして完全に住み込んだ。
6月末、K子さんは品川区の1軒家を5600万円で買うことにし、手付金約400万円を支払った。ところが7月5日、契約破棄を言い出し、遠約金としてさらに540万円を払うことになった。このとき作成した契約破棄同意書には、「親戚立会人」としてL子が署名し、「川崎市麻生区王禅寺」の住所を残している。
この直後、K子さんは高さ約70センチの多宝塔と弥勒菩薩像を購入した。値段はだれにもいっていないが、同じころ横浜ナンバーの車に乗った銀行の支店長が、ジュラルミン製の箱を運んできたのを、近くの主婦が目撃している。
その主婦によると、K子さんの部屋に男女数人が集まって、賛美歌めいたものを歌うようになった。新聞は『世界日報』が入り始めた。統一教会とつながりの深い日刊紙である。川崎ナンパーの車がしょっちゅうきて、大量の水を下ろしていった。プラスチックのビンに入った「生水」である。「洗い物にまで生水を使っているようだった」と主婦はいう。統一教会の創始者、文鮮明氏夫妻の写真、集団結婚のスナップなども部屋に飾られた。
■私の寿命はあと2年
K子さんが屋敷を売って手にした3億余円の現金も莫大なものだが、実はこの金額は、K子さんが相続すべき財産に比べると、ものの数ではなかった。彼女はいまは亡き不動産会社社長の養女であり、社長の実子と遺産分割をめぐって裁判で争っていた。遺産の主なものは、東京・八丁堀の約500平方メートルの土地とビル、名古屋駅前の約260平方メートルの土地とビル、合わせて時価100億円は下らないという。
訴訟関係者たちがL子の存在を不気味に思い始めたのは今年10月になってからである。K子さんは関係者たちに「私はあと2年の寿命しかないとお告げがあった。一刻も早く遺産を分割してほしい」と要求した。その席にはL子も姿をみせ、K子さんにぴったり付き添っていた。