絵:チャンス大城
絵:チャンス大城

 ところが、Kちゃんは旅に出たきりぜんぜん帰ってこないのです。当時、Kちゃんはディズニーランドの売店で働いていて、8万円の家賃を折半して払ってくれていました。その4万円は、毎月きちんと銀行口座に振り込まれるのですが、肝心の本人が帰ってこない。どこにいるのか連絡もないし、携帯にも出ないので、探しようがありませんでした。

 Kちゃんが旅に出てから数カ月がたった頃、たまたま神戸でライブの仕事が入りました。神戸は僕の実家がある尼崎に近いのですが、翌日も仕事があって実家に寄る時間はありません。ライブが終わったら、高速バスで東京にトンボ帰りしなくてはなりませんでした。

 神戸のライブ会場に入ると、なぜかロビーにおかんがいました。

「なんや、見に来てくれたん? 今日、俺な、家帰られへんねん。ライブ終わったら、そのまま東京帰らなあかんねん」
「そんなん、どうでもええねん。あんた、ちょっと耳貸して。あのな、Kちゃん今朝、男の子生まれたよ。おめでとう!」

 ショックでした。

 おかんは、息子が心配かけ過ぎたせいで、まだそんな年でもないのに認知症になってしまったのです。

「わかった、わかった。じゃあ、またな」

 それだけ言うのが、精一杯でした。

 東京へ帰る高速バスの中で、僕は後輩芸人に相談しました。

「おかん、いきなり子供生まれたとか言ってたし……。病院入れないかんのかな」

 翌朝8時、ちょうどバスが東京に着いた時、おかんから携帯にメールが届きました。

「東京に着いたら、◯病院の403号室に行きなさい」

 意味がわかりませんが、指示の仕方が妙に具体的です。それから2時間ぐらい喫茶店で時間を潰して、おそるおそる◯病院の403号室に行ってみると、なんとそこにKちゃんがいたのです。

「えっ、Kちゃん?」
「ちょっと待っててね」

 Kちゃんは別の部屋に入っていくと、しばらくして車輪のついたプラスティックの台車のようなものを押しながら戻ってきました。台車には赤ん坊が乗っていました。

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「昨日生まれたのよ」