絵:チャンス大城
絵:チャンス大城

 そんな不甲斐ない父親の姿を見て、Kちゃんの心はどんどん冷えていってしまったようでした。喧嘩が多くなって、反対に、会話はどんどん少なくなっていきました。

 そしてふと気がつくと、僕はご飯が食べられなくなっていました。

 タバコばかり1日に4箱も吸って、固形物は喉を通らず、満足に眠ることができません。

「やばいなー、どないしょうー」

 頭の中では、このフレーズが何度も何度も壊れたレコードのように、1日中リピートしています。

 そんなある日の早朝、僕は奇妙なものを見てしまったのです。

 当時住んでいたマンションには和室がありました。そこに、黒い服を着た3人組の男が座っていたのです。そして、男たちが僕の方を向いて、何かしゃべりかけてくるのです。

 僕は、男たちが泥棒ではないことを直感しました。

 そのとき、なぜか、自分の体からはっきりと、漢方薬のような、正露丸のような臭いが漂ってきました。それはどう考えても、人間の体臭ではありませんでした。

 彼らは死神だと思いました。

「死神って、空から死にそうなやつを見つけると、降りてくるんやろな。わし、選ばれてしまったんやな」

 僕は思わず、眠っている赤ん坊の手を握りしめました。

「今日で終わりなんかな」

 やがて太陽が昇って部屋の中に光が差し込んでくると、死神たちは消えていきました。でも、あの臭いは消えません。

 僕は洗面所に立って、石鹸で手を洗い続けました。

■離婚

 Kちゃんと別れたのは、しばらくたってからのことでした。

 僕たちが入居していたマンションは4階建てで、8世帯が入っていました。ある時から、その8世帯の住人たちが次々と引っ越していくという、不思議な現象が起こりました。

「えらい引っ越しが続くなー」

 僕はまともに仕事もできず酒ばかり飲む日々を送っていましたが、その一方で、ちょっと浮気みたいなこともしてしまって、Kちゃんとの関係は完全に冷え切ってしまいました。

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突然のおとんからの電話