ひと目でいいから、顔が見たい……。
ご飯を食べ終わると、僕はヘヴさんと保育園の近くの電柱の陰に隠れて、N君の“出待ち”をすることにしたのでした。
声をかけたりするつもりは、まったくありませんでした。ただ、元気な姿が見られればそれでよかったのです。でも、事情を知らない人が見たら、きっと僕たちはものすごく怪しい2人組だったに違いありません。
どれぐらい待ったでしょうか。
ちょうど日が暮れかけてきたとき、Kちゃんが急ぎ足で保育園の門の中に入って行くのが見えました。そして、しばらくたつと、Kちゃんが幼いN君の手を引きながら保育園の門を出てくるのが見えたのです。
どうしょうもなく込み上げてくるものがありました。
すると、ヘヴさんがこう言うのです。
「チャンス、悪いことしたな。逆に申し訳なかった。ゲーセンでも行こうや」
出待ちしたいと言い出したのは僕なのに、なぜかヘヴさんの方が謝るのです。
ヘヴさんと僕は近くのゲームセンターに入って、「鉄拳」で対戦することにしました。鉄拳はふたりで殴り合いができる格闘ゲームで、ヘヴさんは昔、このゲームがとても強かった。何度挑戦しても、なかなか勝てませんでした。
ところが、この日は僕の10連コンボがバンバン決まって、ヘヴさんをボコボコにしてしまったのです。
2回目も僕の投げ技や10連コンボがバンバン決まって、あっという間に勝ってしまいました。ようやく僕は、ヘヴさんがあまり攻撃してこないことに気がつきました。
ヘヴさん、どうしてパンチもキックも出してけえへんのやろ……。
3回目も、僕の圧勝です。僕は、へヴさんの席に回り込んで聞きました。
「ヘヴさん、なんで攻撃してこないんすか」
ヘヴさんはキリスト様みたいな顔でこう言いました。
「気が済むまで、殴ってこい」
「あ゛ーーーー、あ゛ーーーーーーーーーーー、あ゛ーーーーーーーーーーーー」
僕の目からは、バカになったダムのように、涙があとからあとから流れ出ていました。