【太田和彦さんオススメの福岡の名店】
●福岡 さきと
カウンター一本、酒と肴(さかな)の達筆品書き。それだけの店がじつにすばらしい。冬の<赤ナマコ>のみごとな極薄切り。博多名物の<ごまさば>はその最高峰。さらに鯛の<鯛ごま>、これをご飯にのせた<鯛ごま茶漬け>。玄界灘の魚は味の強さがあり、目の利いた仕入れと名調理で存分に味わえる。ここを目指して全国から客が来る九州居酒屋の頂点。
●福岡 寺田屋(てらだや)
細路地の奥の木戸に腰をかがめて入る隠れ家アプローチ。ガラスケースはピカピカの玄界灘の魚、大皿には博多の<がめ煮>などうまそうな品が並ぶ。刺身、煮物、煮魚など、何でもちょっぴり辛めに仕上げるのが地元客へのコツなのだそうだ。「兄貴」と呼びたい若主人は生粋の博多っ子、小さなカウンターを囲む客はすぐ仲間になる。
●福岡 酒肆 野一色(しゅし のいしき)
落ち着いて料理を楽しむには2階の小さなここがいい。定番<くじら入り盛り合わせ>はよく寝かせた六種刺身に仕事を加えてみごと。何気ない自家製<かまぼこ>は薬味各種がシログチすり身に透けて味香りは絶品。福岡育ちの若主人は「博多の酒飲みは義理堅いが手を抜くとすぐ怒られる。情に厚く、もう毎日一生懸命やるしかないです」。白割烹着の美人女将は「博多男は飲むと気が大きくなり、おごっちゃる」と格好つけるが、家に帰ると奥さんに謝ってる」と笑う。博多若夫婦の意気やよし。
●小倉 武蔵(むさし)
黒札の品書きはここまで200円、ここまで300円と大ざっぱ、コマカイことは言わない。小倉名物のぬかで炊いた<いわしのじんだ煮>は濃い味で酒がすすむ。美人おかみさんは東京から嫁いできたが、人柄温かく情の厚い気風にすぐなじんだそうだ。「小倉の女は?」と聞くと「気は強いが、男を立てる」と即答。私はそこに「美人」を加えよう。