そもそも、なぜ大谷のトレードの可能性がまったくなくならないのか。彼らの意見を見ると、理由はエンゼルスが今回、大谷と複数年契約をしなかったことにありそうだ。
エンゼルスの地元メディアは「年俸調停を回避した」という事実にのみ注目している。来季終了まで大谷の保有権を持つエンゼルスが2年契約終了時に新契約を提示するのは当然のこと。前出の『オレンジカウンティ・レジスター』にも「この発表自体は驚きではない」と述べられている。
では、これがトレードの噂とどう関係があるのだろうか。エンゼルスが保有権を持つということは、来季終了までは大谷の去就を球団がコントロールできることを意味する。ほとんどのメディアは「可能性は低い」とトレード放出に否定的な見方をしているが、「トレードは絶対にない」とは言い切れないのである。そのため、他球団のメディアは色めき立っている。
今回、エンゼルスが複数年契約で合意していれば、こうした憶測を避けられただろう。しかし、エンゼルスのアート・モレノ球団オーナーは球団の売却検討中で、複数年契約の提示に踏み切れない事情もある。今回の早期契約合意の意図は、「大谷の引き留め」ではなく、「売却の具体化」ではないかという指摘もされている。前出の『ジ・アスレチック』は次のような見解を示している。
「(今回の)契約の行間を読めば、なぜこの時期にこの契約が行われたのか、なぜこのようなコストになったのかを理解することが可能だ。エンゼルスのアート・モレノ球団オーナーは、チームの売却を考えている。そのプロセスは進行中だ。チーム全体の年俸が分かることは、新オーナー候補の(買収検討の)役に立つだろう」
史上最大の年俸アップとなった大谷だが、エンゼルスの売却検討が重なり、再び大谷の去就が注目されるようになった。はたしてエンゼルスは、大谷がFAとなる来オフまでに、複数年契約を結べる状態になるのだろうか。そうでなければ、来季のトレード期限、あるいは来オフに争奪戦が繰り広げられるに違いない。はっきりと結果が出るまで、大谷のトレード待望論は続くことになりそうだ。(澤良憲/YOSHINORI SAWA)