※写真はイメージです。本文とは関係ありません
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――「今、この状況で」というタイミングで自動的に「スイッチで切り替わ」り、麻衣さんは病室のストーリーに合った役柄(それゆえ麻衣さん自身ではない姿)を演じることになる。親が作るストーリーに合わせて演じるのだが、これは病院に向かう車中で準備した努力の成果であると同時に、状況が要請するタイミングで自動的に切り替わる受動的なものでもある。

 麻衣さんは「支える役」として「明るいこと言わないといけない」のだが、もしかすると親もまた「母親が。それはもう、泣き役みたいな」と、役を演じていたのかもしれない。兄を生き返らせたいという両親の欲望に麻衣さんが翻弄(ほんろう)され演技を強いられているように見えるのだが、実は親もまた“そう演じないといけない”という非人称的な(誰からの命令でもない)圧力に屈していたのかもしれない。

■無力化


【麻衣さん】あきらめっていうんですかね。無力化っていうか。『これをするしかない』って、『自分はそうするしかないんだ』みたいな。いろいろごちゃごちゃ考えて、自分が励ましたくて励ましているのかももう分かんないっていうか。〔……〕自分の、これ以上もうダメージ受けないためにやれることは、例えば、本当に嫌ですけど、『親がこのタイミングでこういうことを言ったりすると喜ぶ』とか、『このタイミングでは何も言わないほうがいい』とか。そういうのを考えるとかじゃなくて、自動的にそういう切り替えが付いていて、本当にそういうふうに口からも出てきちゃうし、いろいろ。だから、本当、すごい自分はなんかロボットっぽくもあるし、思うっていうことが、本当にさっきもちょっと言ったんですけど、分かんなくて、思っていることを言うっていうのが。

 思っていることを言うっていうよりは、場を保つために自動的に口がしゃべっちゃうから、だから、思っているのは黙っているときっていうか。黙っているときは思っているっていう感じですかね。会話になっちゃうと、特に、病室、兄の病室とか、親に対してはそういう癖になっちゃって。だから、でもやっぱり。

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麻衣さんにとってヤングケアラーであることは、自分を失う「無力化」…