ここ数年、家族をケアする子ども、「ヤングケアラー」がメディアで頻繁に報じられるようになった。しかし、言葉そのものが独り歩きするかのように、身体的な介護や家事労働に時間を取られ、学校に通えない子どもといったイメージが固定化しがちではないだろうか。実際には、そのどちらもしていないケースもあれば、鬱病や薬物依存の親をケアしている子どももいる。
大阪・西成地区を始め、子育てや看護の現場でフィールドワークで知られる大阪大学教授の村上靖彦さん(専門は現象学)は、こうした社会一般のイメージと現実との乖離を危惧し、ヤングケアラー経験者へのインタビューを重ねてきた。そして、その「語り」を丁寧に分析し、当事者が抱える困難の本質、その多様さを掘り下げた。村上さんは、介護や世話の前に、まず、家族を心配し気づかう子どもという視点で捉えている。ここでは、新刊『「ヤングケアラー」とは誰か――家族を“気づかう”子どもたちの孤立』から一部抜粋・改変し、かつてのヤングケアラー・麻衣さんのケースを紹介する。
麻衣さんは11歳の時、2歳年上の兄がてんかんの発作で倒れ、長期脳死の末、3年8カ月後に亡くなった。入院治療している兄を両親は病院で看病し続け、麻衣さんは祖父の送り迎えで兄の病院に通っていた。インタビュー当時は30代であった。
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■兄の神格化
【麻衣さん】家から医大に行くあいだに気持ちつくってくみたいな感じで。別にいいことなくてもなんか多少盛っていろいろ、「きょうこんなこと頑張ったよ」みたいなとか、褒められたとか、楽しかったみたいな話して、みたいなそういう感じでしたかね。
でも、もちろん回復はすごい望んでるんですけど、私のほうは多分、引いた見方も。〔中略:以下……で示す〕だんだん、どんどん兄貴が神格化していくみたいなのが、私は入っていけないっていうか。[父の看護記録に]書いてある記述とか読んでも、なんかこう、生かしてるんじゃなくて、「あいつが生きたいと思ってるから生きてるんだ」みたいなこととか、「全宇宙の力を」みたいな感じになってきて、『そこまで入り込めないな』っていうのが自分はあって。ていうのとか。