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――兄は当初家から遠い病院に入院していたため、両親が看病に付ききりであり、麻衣さんも毎日見舞いに訪れていた。

 大人の幻想で兄は「だんだん、どんどん……神格化」される。医療によって無理に「生かしてる」意識のない兄が、「生きようとしてる」という能動的な意思を持っているとみなされているのだ。現実を認められない否認から生まれている幻想である。「だんだん、どんどん」神格化するという亢進(こうしん)するリズムは、「そこまで入り込めない」麻衣さんが脱落することと裏表になっている。

 そのような親と会うために、麻衣さんは「気持ち作ってく」。話を「盛って」、親の期待に合わせて、心配をかけないように元気なふりをしているが、これは「あいつ生きようとしてる」という兄をめぐる幻想と結びつけられている、演技としての元気さである。麻衣さんにとって話を盛ることは、親が作ったストーリー(兄の神格化)に乗ってあげるということであり、本心では「引いた見方」をしていて「入っていけない」。こうして麻衣さんは父親が兄について持っている幻想に表面上は合わせつつ、本心では離れている。一見自然な反応に見えて実は傷になるのが、「めっちゃ元気にしなきゃ」という気丈(きじょう)に振る舞う姿だ。

■「お兄ちゃんの分も」頑張る

【麻衣さん】あんまり、感情というか、やっぱりみんな「頑張れ」みたいな感じですよね、私には。「頑張ってね」みたいな。「お兄ちゃんの分も」みたいな、「かっちゃんの分も」。カツヤっていうんですけど、「かっちゃんの分もね」とかって。とか。

 あと、基本的には自分の役割は見舞いに行って、親を元気づけることっていうか、兄に面会に行くことによって、「ほら、麻衣も来たよ」みたいな感じで、それで、そのついでに「きょうも別に楽しい1日だった」みたいな感じで安心させるみたいな。感じだったかなと思っていて。

 自分の気持ち、『怖いなあ』とか、『寝られない』とか、そういうのはあったんですけど、夜。なかなか寝られないとか、夜になると、すごい泣くとか。〔……〕アザラシのゴマちゃんのぬいぐるみがあったので、それを抱っこして泣いているみたいな。

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麻衣さんに影響が…