ドイツ戦終了後、選手らが集まって円陣を組む(写真/アフロ)
ドイツ戦終了後、選手らが集まって円陣を組む(写真/アフロ)

 その結果、堂安律が同点ゴールを決め、浅野拓磨が逆転ゴールを記録した。このチームは逆転勝利の少なさや、攻撃的な采配が少ないとされてきたが、何より重要なW杯本番で、強豪ドイツを後手に回らせる手を打ち、勝利をつかみ取った。

 森保監督はシステム変更の意図について、こう説明する。

「相手にボールを握られて、かなり大きく揺さぶられていたところがあったので、3バック、そして5バックということで、相手の揺さぶりに対してケアしようと考え、システムを変更しました。かつ、直近の親善試合のカナダ戦の時に、相手に合わせて良い守備ができれば、われわれがボールを握るというところもチームとしては自信を持っていました。ですから幅の部分をケアして攻撃に厚みをもたらすシステムということで、選手たちは理解してくれていたと思います」

指導者として大きな成長

 2012年から2017年途中までのサンフレッチェ広島の監督時代にも同じ3-4-2-1を用いてJ1を3度制覇しているが、当時は守備の局面で帰陣することがベースだった。素早く引いてブロックを組み上げ、相手の攻撃を防いで、ボールを奪ったら3-4-2-1から4-2-5に可変して攻める。それが基本。当時とは比べると形は同じでも趣は大きく異なる。

 日本代表では後ろを相手と同数にしても守り切れる選手がそろっていることもあり、よりアグレッシブに前に出ていくことが可能になっている。だからこそ、攻撃的なカードも切れたに違いない。過去を振り返っても森保監督が、90分の中でこれほど攻撃的な手を打ったことは記憶にない。隠してきたわけではないだろうが、指揮官も指導者として成長してきたということだろう。

 大会前、常に日本サッカーの発展を願う森保監督は、自らが経験した「ドーハの悲劇」を「ドーハの歓喜」に変えると言った。まだ1試合が終わっただけだが、最善の準備をして、状況に応じた選択をし、あのドイツを破った。その過程を知れば、今回の勝利は奇跡ではない。あえて言うなら、「ドーハの必然」だろう。

(ライター・佐藤景)