大学側は公式HPで「女子枠」創設の背景について「ダイバーシティ&インクルージョン(編集部注・多様性と受容)の取り組みの一環」「理工系分野における女性研究者・技術者を増やすこと」などとしている。日本の大学学部の女子学生の理工系分野の入学者は7%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国(同15%)に比べて、極端に低い。こうした状況を是正しようと、名古屋大学など他の国立大学でも「女子枠」を設ける動きはある。
だが、これに対してSNS上では「女性の方が受験で有利になるのは逆差別だ」「女性の社会進出とは別の問題」など疑問視する声も上がっている。
大学側の意図や世間の反応について、山崎さんはどう思っているのだろうか。
「入試は受験生にとって、命がけといっても過言ではありません。推薦枠とはいえ女子限定で入試を行うことで、男子の一般受験生がないがしろにされていると感じないかは心配です。また、女子枠で入った生徒たちに対して、『男なら落ちていたのに女子だから受かった』など心無い言葉を投げかられないかという不安も残ります。大学側が強調する“多様性”というのも、すごく難しい言葉で、どのようにも使えてしまう。多様性は性差だけではありません。性差以外の“多様性”についても配慮しているのか、という点は考えるべきだと思います。制度を作ったら終わり、ではなく大学側はその後のフォローも必要なのではないでしょうか」
山崎さんは大学院を1年で中退し、芸能事務所に所属しながら旅行系の一般企業に就職。会社員を1年経験した後、俳優に専念して活動してきた。最近では、東京理科大卒の三浦透子さんなども活躍し、「リケジョ女優」という言葉も生まれた。山崎さんが東工大で学んだことで、俳優として生かされている部分はあるのだろうか。
「正直言って、研究内容という点ではないですね(笑)。ただ、勉強に対する姿勢だったり、課題に直面したときの精神面だったりは、大学で鍛えられたことは大きいと感じています。ムチャぶりのスケジュールになっても、何とかなるとか(笑)。あと会社員を経験したことは、組織や社会の仕組みを知ることができ、社会で生きる一人の人間として成長させてもらいました。これは演技をする上で役に立っています。女性の働き方、と言ってもそれこそ多様です。東工大の女子学生には、将来の道はひとつではないことも伝えたいと思います」
女子だから、理系だから、ということは本質ではない――唯一無二のキャリアを歩んできた山崎さんだからこそのメッセージだろう。
(AERA dot.編集部・作田裕史)
◎山崎丹奈(やまざき・にな)
1991年生まれ。幼少期は米ペンシルベニア州で育つ。桐蔭学園を卒業後、東工大土木・環境工学科(当時)に入学。2009年に「ミス東工大グランプリ」に輝く。2012年に女優デビュー。17年に映画「トリノコシティ」で主演。その他、「母になる」(日本テレビ系)、「マザー・ゲーム」(TBS系)など多くのドラマに出演。一児の母として育児にも奮闘中。