撮影:中山優瞳
撮影:中山優瞳

■義務感を覚えるために撮る

 祖母は平日、朝9時から夕方4時までデイサービスセンターで過ごす。

「父は朝から晩まで働いているので、私が様子を見に行ったり、しょっちゅうおばあちゃんのところに行かなければならない。平日にしかできないデイサービスの人とかのやりとりを私が担当しています。土日はお昼ご飯を届けたり、夕食を作って置いておく。父もお弁当を持っていったりして世話をしています」

 作品は主に東京・目黒にある祖母の家と、静岡県伊東市にある父親の別荘を訪れたときの様子を写したもの。別荘の窓からは相模湾が望め、その向こうには伊豆大島が見える。「それで、この作品を『海の向こうに』という題にしました」。

 そもそもなぜ、祖母の写真を撮ろうと思ったのか?

「おばあちゃんのところに行くことと、自分の好きな写真をいっしょにした。言ってみれば、おばあちゃんのところに行かなければいけない、っていう義務感を覚えるために撮っています。だから、おばあちゃんの家に行くときは、カメラを持っていくぞ、という感じで家を出ます」

 ただ、今思うと、写真を撮ることで落ちついて自分の行為を見ることができるという。

「『それはやっちゃだめ』とか、ついつい怒りたくなってしまう自分に対して、写真を撮ることでワンクッションおける」

撮影:中山優瞳
撮影:中山優瞳

■本人に悪気はないけれど

 祖母の面倒を見始めたころ、祖母がうそをついているのか、本当に忘れてしまったのか、よくわからず、疑心暗鬼になった。

「祖母はうそをついているわけではないんですけれど、その前に言ったことを忘れてしまっているから、話のつじつまが合わない。でも、本当に忘れてしまったのか、何か隠しているのか、私にはわからない。すると、自分が何かおかしくなったような気持ちになった。自分だけがもう別の世界に入ってしまったのか、って感じるくらいに。気がついたらおばあちゃんに強く当たっていた」

 祖母は数日前のことは忘れてしまうが、昔のことは鮮明に覚えている。

「おしゃべりが好きで、すごく話すんですけれど、基本的に昔の話で、いまだに大学生のときのことをずっと話している。何百回も同じ話を繰り返されると、もう返答できなくなる。話を聞き流さなきゃ、って自分に言い聞かせるんですけれど、うまく流せない。『その話はもう何回も聞いたからいいよ』って、ついつい途中で終わらせてしまう。やってはいけないな、と思ってはいるんですけれど……」

 当初、父親は祖母といっしょに暮らすことを考えた。

「でも、やめました。こんな祖母といっしょに住み始めれば父はおかしくなりそうだった。どうにもならないことはわかっているんですが、どうやって祖母と接したらいいのか、今も父はすごく悩んでいます」

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自分が悪いんじゃないか