* * *
日本大学芸術学部で写真を学ぶ中山優瞳(ゆめ)さんはいわゆる「ヤングケアラー」だ。
父親に代わり、認知症の進む1人暮らしの祖母の世話をしている。2度の離婚を経験した父親は祖母との折り合いが悪く、仕事も忙しいことからなかなか介護に手が回らない。
本来は保護者が担う家事や家族の世話を子どもや若者が行う、「ヤングケアラー」。最初は一時的な手伝いからスタートするが、徐々にその役割が固定化していく。
家族の世話をすることは当たり前だと思い、当事者がヤングケアラーであることに気づかないことは珍しくない。大学生や社会人になってから周囲から「あなたって、ヤングケアラーじゃないの?」と言われて、初めて気がつく場合が多いのだ。
中山さんの場合もそれと似たケースだった。
「祖母の写真を撮り始めたとき、大学の先生に見せたら、『君はヤングケアラーなんだね』と、言われた。そのときに初めて、そんな言葉があることを知りました」
■ポップな印象の写真
4年前に中山さんの父方の祖父が亡くなり、1人暮らしを始めた祖母。その祖母の認知症が急速に進行していたことを中山さんと父親が気づいたのは、2020年春だった。
ただ、写真に写る祖母の姿は元気そうに見える。表情も明るく、おだやかだ。
「よく、そう言われます。『介護をしている人が撮った写真にしてはポップな感じだね』『認知症みたいなシーンがないね』とか。もちろん、そういう写真も撮っていますが、作品は美しくしくありたい、という気持ちが強いのかもしれません。それに、祖母の世話をしていて楽しくないことばかりではないですし」
中山さんが子どものころ、祖母は厳しい人だと思っていた。ところが、写真を撮り始めると、これまでとは違う祖母の姿が見えてきた。
「おばあちゃんとしゃべっていると、すごく小さな子と話している感じがします。昔は無邪気にピースポーズをしたりするような感じの人じゃなかった。そんなおばあちゃんの姿を見ると、今はハッピーなのかな、って、少し思います」
祖母はそれなりに歩けるし、体が特に悪いわけではない。しかし、要介護認定「2」である。
「記憶力がかなり低下しています。ついさっき言ったことを忘れてしまうので、会話がうまく通じない。そうめんを作ろうして忘れてしまったのか、から焚きの鍋を発見したこともありました。それで心配になって、父と相談して、デイサービスや宅配弁当を頼もう、という話になりました」