学びが仕事に直結する職業は、やりがいがあった。一方で管理職になるとまだまだ男性社会。全員が参加する会議の場ではなく、男性だけの雑談の場などで仕事の話が進むこともある。旧態依然とした慣習に悩むこともあった。
「学問でも職業でも、理系の世界はまだまだ男性社会だなと感じます。『女性は理系の学問や職業が苦手』なのではなく、男性社会からのプレッシャーが理系の女性人口増への足かせになるのではと感じます」
南井さんはキャリアアップのために、「認知科学」を学ぶ決意を固めた。人間の知覚や思考など知的機能の仕組みを、心理学や計算機科学といった分野から研究する科学のことだ。
2019年から米国の大学院で心理学を学び、いまはドクターコースで脳科学を研究している。
「私の興味の対象は、脳科学とデータサイエンス。人間の学習・意思決定の科学的なプロセスは、まだ解明されていません。私は、人間の脳の働きを数学的な式で表現し、モデル化したいのです」
南井さんは楽しそうに、そう話す。
その研究は我々の生活にどう生かされるのか。
「たとえば、人間が効率よく学ぶためのシステムの開発にも生かせます。情報をどんなタイミングと方法で脳に入れると、適切に処理され定着するのかが解明できるかもしれない。将来的には、構築した人間の認知モデルをAIと組み合わせて、世界を変えていきたいんです」
レストランで客席に料理を運ぶロボット、電気の人感センサーなど、何気なく送る日常のなかに、算数や数学、データサイエンスが用いられている時代である。
「算数や数学の知識を生かせる仕事と言われて何を思い浮かべますか。パッとイメージするのは、『先生』や『研究者』かもしれません。でも、実はいまは、数学を使って仕事をする人が、とても多い時代なのです。『女の子だから算数は、苦手』なんて思い込むのはもったいない。算数や数学を楽しんで、自分の可能性をどんどん広げてくださいね」
(AERA dot.編集部・永井貴子)