では、実際に大学で理系を専攻し社会で活躍する女性は、「女の子は算数苦手」説をどう思っているのか。
現在、米国の大学院で脳科学を学ぶ南井優希さん(33)。奈良女子大学理学部の数学科(当時)を経て、京セラの関連会社や楽天、デジタルプラットフォームを手掛けるABEJAでデータサイエンティストとして活躍してきた。意外にも、両親ともに文系だという。
小学校時代は塾には通わなかったが、算数は好きだった。自信がつくと得意科目になっていた。
算数の面白さに目覚めたのは、小学校高学年以降。公式を扱う内容に入ってからだ。角度や比、面積などの問題で、公式という“武器”を使ってどうやって解いていくのか。
「解く方法を考える過程が面白かった」と南井さんが言うように、中学、高校でより深く数学を学ぶ喜びを知った。
同時に、違和感も膨らんだ。
高校では理数科を選択。女子の人数はクラスの半分以下だ。理系の成績に個人差はあっても男女差は感じたことはなかった。
だが、数学好きな女子というだけで「変わっている」「怖そう」「オタクっぽい」という空気があった。親戚から「女の子なのに理系を選ぶなんて変わっている」と言われたこともあった。
「ひと言ひと言は、悪気のない言葉。でも、好きなことを『変』と言われ続けるのはストレスです。その積み重ねが、『女子は算数や数学が苦手』というイメージと女子が理系の進路を選択しづらい環境をつくり出しているのではないかと思います」
再び転機が訪れた。
南井さんは、奈良女子大学理学部の数学科に進学した。
「数学好きの変わり者女子」と言われた世界が、がらりと変わった。数学を学ぶ学生全員が女性。異性の目を気にせず、数学に没頭できた。
卒業後、選んだ職業は膨大なデータを機械学習などの技術を用いて分析し、課題解決につなげるデータサイエンティストだった。数学が実際の社会のなかで“生きる”ことを学んだ。