青山氏は政治記者として、一連の経緯をどう見たのか。
「オフレコという約束があるのですから、基本的には約束を守らなければならない。しかも、取材現場には毎日新聞だけではなくて、他社の記者もいたわけです。私は10社くらいいたと聞いていますが、他社は、まずはオフレコを守ろうとしたわけです。毎日新聞だけが抜け駆けしたことになり、他社に対する信義則も踏みにじってしまったと思います」
今後は、官邸取材で記者が本音を引き出しにくくなるのでは、という危惧もある。
「少なくとも、当面は官邸で秘書官がオフレコ取材に応じることはないと思われます。オフレコ取材によって官邸の判断の遅れや総理の決断のぶれなど不都合な真実を知ることもある。その機会が失われると、ある意味、国民の知る権利を阻害することにもなるわけです。そのリスクをてんびんにかけて、何をどのように報道すべきか考えるのも政治記者の知恵であり、センスだと思います」
青山氏の日本テレビ時代の官邸取材はのべ10年になるが、政治家や官僚のオフレコ取材は当たり前の日常だったという。オンレコでは聞けない“本音”や“裏側”を探り、決断の背景や問題点、今後の政治の行方を確かめることがオフレコ取材の目的だが、取材した内容の扱いが特に明文化されているわけではない。その根底にあるのは、信義則なのだという。
青山氏は永田町におけるオフレコ取材の実情をこう話す。
「結局、記者会見や会議の頭撮りなど表ではない場所は、すべてオフレコ取材なんです。設定された懇談の場合は『政府筋』などで引用が可能な場合もあれば、『完オフ』となれば、話そのものを引用してはダメだというパターンもあります。夜回り、朝回りは基本的にはオフレコですから、『オンのコメントお願いします』と言わない限りはオフレコです。オフレコ取材ではメモを取ってもダメですし、もちろん録音もできません」
元厚生労働大臣で国際政治学者の舛添要一氏は荒井氏の更迭後、ツイッターで「大臣時代に私は、記者たちに求められて『記者懇』(オフレコ)を開いたが、ルールを破って内容を週刊誌に漏らす記者がいた。給料の安い新聞社の記者でカネ稼ぎのためだった。それ以来、私は記者懇を止めた」とつぶやいた。