■SNSで情報を発信 コラボや講演が舞い込む

 工業高校を卒業し就職した。いずれ父の仕事を継ぎたいと考えていたが、その前に社会勉強をしておきたかった。茅葺職人はかつて庄内地方で数人いたが今では高齢化が進み、現役は父一人。自分が継がなければ、茅葺屋根の家がいずれ消滅してしまうという危機感があった。

 父に弟子入りし、同時に狩猟免許も取得。里山を守るには害獣駆除は欠かせない。マタギとしても歩き出したその3カ月後に事故に遭った。

 医師に「下半身不随」を宣告されてすぐ、車いすユーザーの日常生活を調べ始めた。だが、どんなに丁寧に調べても、障害に対する嘆きや社会に対する不満か、もしくは専門家の研究論文しか目にできなかった。

 日本脊髄障害医学会の18年の調査から算出すると、国内で脊髄損傷をした人は1年間で推定約6千人。毎年これだけの患者が増えると予想される。車いすユーザーの正確なデータはないが、高齢者を含め約200万人以上いると言われている。渋谷は、この人たちが快適に日常生活を送るための情報が圧倒的に不足していると思った。

「車いすになってもおしゃれもしたいし、友達と遊びたいし、恋愛も楽しみたい。可能ならセックスもしたい。でも、そんな当たり前の日常を過ごすための情報がほとんどなかった」

 それなら、自分がこれから経験することを包み隠さず発信すれば、情報不足に悩んでいる人たちの参考になるかもしれないと思い立った。

(文中敬称略)

(文・吉井妙子)

※記事の続きはAERA 2023年2月27日号でお読みいただけます。