「現代のもののけ姫Maco」のYouTube名で、身体障害者のタブーを超えて発信し続ける(撮影/植田真紗美)
「現代のもののけ姫Maco」のYouTube名で、身体障害者のタブーを超えて発信し続ける(撮影/植田真紗美)
この記事の写真をすべて見る

 車いすYouTuber、渋谷真子。家業を継ぐため、茅葺職人の修業中に屋根から落下。脊髄損傷により、車いすでの生活を余儀なくされた。でも、渋谷真子は常に冷静だった。事故直後も、体の動かない姿を自撮り。すぐに前向きにどう生きていくかを考えた。今はYouTuberとして、排泄から性についてと、包み隠さずさらけ出す。障害者に対する固定観念をぶち破りたい。

【この記事の写真をもっと見る】

*  *  *

 東京五輪・パラリンピックが開催された2021年、パラアスリートを幾人も取材した。中途障害で車いすになった選手らは、現実を受け入れるまでにさまざまな葛藤があった。人生に絶望し、自暴自棄になり、そこから這(は)い上がりパラリンピックに辿(たど)り着くまでの艱難辛苦(かんなんしんく)は、一様に心迫るものがあった。そんな折、たまたま目にしたYouTubeに目が釘付(くぎづ)けになった。

 車いすの若い女性が、ケガ直後のことをこう表現していたのだ。

「これって、やっちゃった系?」

 事故にあってすぐ、下半身不随になることを直感し、医療番組やドキュメンタリー番組で見た身体障害者の姿が目に浮かんだという。

 その後も下半身まひによる排泄(はいせつ)障害や生理、あるいはセックスなどデリケートな話題も明るくにこやかに、堂々と語っていた。

 驚いた。パラアスリートの取材時、排泄や性についても知りたいと思ったものの、踏み込んだ質問はタブーと勝手にブレーキをかけていた。そんな疑問が一挙に氷解した。そしてその動画には、自分の人生を世間に差し出す覚悟も見えた。

 YouTube配信の主は、山形県鶴岡市に住む「現代のもののけ姫Maco」こと渋谷真子(しぶやまこ)(31)。手入れの行き届いたロングヘアをかき上げながら力のある視線を向ける。

「私が怪我(けが)したとき、車いすユーザーが普通に日常を過ごすための情報がほとんどなかった。だったら私が、自分の経験や体験を包み隠さず発信すれば、他の障害者の手助けになるのではないかと」

■古民家の修繕中に落下 事故直後の姿を自撮り

 自分の排泄障害について語った動画は、再生回数430万回を超えた。実際に使うカテーテルや尿取りパッドなどを画面に映しながら使い方を説明。例えばこんなことをにこやかに語っている。

「尿や便が溜(た)まったという感覚はありません。意識的に出すこともできません。尿は3時間おきに尿道口からカテーテルを入れて出します。私の場合、便は昼前ぐらいに降りてくるので、ゴム手袋をしてワセリンを塗った指を入れ、掻(か)き出します」

 そしてこう続ける。

次のページ