講演やイベントなど仕事の依頼があれば全国どこにでも一人で向かう。この日も前夜に山形から来て、埼玉や都内で仕事をこなし、夕方に福岡へ。ただ、車いすに長時間座ると体の負担も大きく痛みが出る(撮影/植田真紗美)
講演やイベントなど仕事の依頼があれば全国どこにでも一人で向かう。この日も前夜に山形から来て、埼玉や都内で仕事をこなし、夕方に福岡へ。ただ、車いすに長時間座ると体の負担も大きく痛みが出る(撮影/植田真紗美)

 一方、自分を責め続けた父は、看護師たちの言葉に、自分の娘の強さを改めて思い知らされた。

「看護師さんに“あんな冷静な患者さんは初めてだ”と言われました。手術前の病室は普通、緊張するらしいのですが、娘はコントみたいな会話で、看護師さんたちを笑わせていたらしいです」

 事故後、友人たちには見舞い禁止令を出した。友人たちが自分の姿に取り乱すのを見たくなかったからだ。だが車いす生活者としての方向性が見えた2カ月後、見舞いを解禁。東京から真っ先に駆け付けた地元出身の金森怜那(31)は、渋谷の姿を見た途端、涙があふれ出した。

「お見舞い禁止だったので、どんなに落ち込んでいるのかと心配していたら、高校時代に駅前でパラパラを踊っていた時と変わらない真子がいた。

安堵(あんど)した瞬間、感情が切れてしまいました」

■学生時代は典型的なギャル 車いすで人生を楽しみたい

 26歳の女性が突然、車いすになると宣告されてもなぜ冷静でいられたのか。渋谷はいう。

「子どもの頃からなんでも一人で決めてきたし、小学校は分校だったから、自分が行動しなければ何も始まらなかった。自分のやったことは自分の責任という考えが心根にある。それにカッコつけだから、取り乱すのはダサいと思った」

 鶴岡市で7歳上の姉、1歳上の兄の3人きょうだいの末っ子に生まれた。渋谷の自宅がある田麦俣地区は月山の麓にあり、現在も茅葺で「兜(かぶと)造り」と呼ばれる3階建ての多層民家が残されている。渋谷の生家もその一つで、江戸後期に建築されたものという。すぐ後ろの旧遠藤家は県の有形文化財に指定されている。

 小鳥のさえずりで目覚め、朝食前に山菜を採るため山に入り、それを食卓に並べる。父と母は仕事に忙しく、子どもの頃は虫や動物と遊んだ。スキーが得意で、小学6年の時県大会で優勝し、中学で強化指定選手に選ばれた。

 小学校で児童会長、中学でも生徒会長を務めた。その一方、ルーズソックスをはきピアスをする典型的なギャルでもあった。小・中学時代の同級生・五十嵐里穂(31)が言う。

「学校で目立っていたけど、勉強はできるし、学校行事も仕切っていたので、先生の受けはよかった。自分を通しても、敵をつくらないタイプ」

 作文や弁論大会が得意だった。人前で話すときはメモを見ない。原稿を見ながら喋(しゃべ)る人はカッコ悪いと感じていた。この時に育んだ技術が今、YouTuberとして役立っていると渋谷はいう。

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