プレー中の木暮風汰君(写真=間久里スネークス提供)
プレー中の木暮風汰君(写真=間久里スネークス提供)

 打球音や声での指示など、野球の状況判断には「音」は重要な要素だが、難聴のハンディを抱えながらも野球を続けた前例はある。日本ハムなどで投手として活躍した石井裕也さんや、甲子園のマウンドに上がった選手もいる。過去の新聞をたどると、夏の甲子園の地方大会で、難聴の選手を取り上げた記事が複数見つかった。

 とはいえ、キャプテンとなると、また話は別かもしれない。大きな声で指示を出したり、言葉やその姿勢でナインを鼓舞して引っ張ったりする立場で、「ついていく」ではダメなのだ。

 弓削監督は、風汰君の実力に加え、毎日素振りを欠かさないひたむきさ。うまく言葉を出せないときがあっても、グラウンドでは誰よりも大きな声を出すその姿勢を評価していた。

「そんな風汰だからこそ、『みんなを引っ張っていく』ことにもチャレンジしてほしい」と、キャプテンに抜擢することを考えたという。

 一昨年の12月、監督から相談を受けた両親は、頭が真っ白になった。野球の指導者である大樹さんは、キャプテンのあり方や、その責任の重さを知っている。「いやいや、まさかまさか、と率直に思いました」と大樹さん。

 それでも、親として考えた。風汰君は、学校でも班長などのリーダー的な役割を任されたことが一度もなかった。ハンディがある息子に、この先そうしたチャンスがあるかはわからない。だからこそ、今、スネークスでチャレンジしてもいいのではないか。

「風汰がキャプテンになることで、結果、チームがまとまってくれるかもしれない」。両親はそう考え、心を決めた。

 だが……。

 チームメートの前で、キャプテンに指名された当の風汰君は戸惑った。

「心の底から、えっ、て思いました」

 恐れていたことが、いきなり起きた。キャプテンになって最初の市内大会のくじ引きで、開会式の選手宣誓の役を引き当ててしまったのだ。両親も風汰君も悩んだが、親子で宣誓の文章を考えて練習し、発音できなかった言葉を別の言葉に書き換えて、また練習するという作業を何度も繰り返した。迎えた開会式では、選手宣誓の場面になると、大会本部の担当者がジェスチャーで風汰君に合図を送ってくれた。

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「キャプテンも野球も、やめたくなった」