大きな声で、見事な選手宣誓。風汰君には聞こえていないが、割れんばかりの拍手に包まれたという。
選手宣誓の試練は乗り切ったが、またすぐに壁にぶつかった。練習中に、上手に指示が出せない。チームを引っ張りたいと思っても、仲間を鼓舞する言葉が出てこない。先輩キャプテンたちのお手本が耳に残っている選手なら違ったかもしれない。でも、風汰君にその蓄積はない。
学童野球では、キャプテン同士がジャンケンして勝ったほうが先攻か後攻かを選択するが、後攻を選択することが圧倒的に多い。負けた風汰君が「先攻」だと思い込んでチームに伝えてしまい、試合直前に勘違いだとわかり大混乱してしまったこともあった。
今となっては笑い話だが、キャプテンの重責を全身で感じている小6には、きつい出来事だ。
キャプテンになって3カ月がたったころのこと。
「理想通りにできなくて、つらくなって。キャプテンも野球も、やめたくなった」
風汰君は落ち込んだ。
家では、言葉にこそ出さなかったが、以前は楽しみにしていたはずの土曜日が近づくにつれ、どんよりするようになった。グラウンドでも、自信のなさが態度に出てしまっていた。
それでも弓削監督は、特別扱いだけはしなかった。
「下を向くな!」
「こんなもんじゃないだろ!」
うつむくキャプテンに、他の子どもたちと同じように、厳しい言葉ではっぱをかけ続けた。
「ハンディがある、かわいそうな子ども」ではなく、他の子たちと同じように接してほしいという両親の願いがあったからだ。
大樹さんは一度だけ、無理して野球に行かなくてもいいんだよ、と話しかけたそう。それでも、風汰君はグラウンドに向かい続けた。
そんなキャプテンを支えたのは、チームメートたちだった。
「みんなでキャプテンをやるんだ、という気持ちを持ってくれたんだと思います。たくさんの場面で、積極的に風汰に声をかけて助けてくれました」(康子さん)
さらに、春以降は大会が続くため、視線は内なる悩みより、自然に戦いへと向く。そこはチームの4番打者。打てばうれしいし、打てなければ悔しい。弓削監督も、叱るだけではない。風汰君が活躍したときにはそばに寄って、「さすがキャプテン!」とほめたたえた。