集団に入るということは、そこにいる人たちの配慮やサポートが必要になることも、想像できた。
「迷惑をかけてしまうと思いますが……」
そう頭を下げた康子さんに、低学年を担当する指導者はこんな言葉を返してきたという。
「そんなこと気にしなくていいですよ。やれることはサポートしていきますから、一緒にやっていきましょう」
他人にとっての当たり前が、当たり前ではないのが風汰君。指導者たちは、障害の特性を知ろうと努力し、工夫をしてくれた。
例えば試合では、守備についた選手同士が順番に声を回していく場面がある。どのタイミングで、何を言えばいいかは耳が聞こえればすぐにわかるが、風汰君はそうはいかない。風汰君に合わせて、そのリハーサルを繰り返し、各選手がジェスチャーとともに声を回すようにした。
「下がれ」「前へ」などの守備位置の指示は、ベンチから身ぶり手ぶりで伝えた。
守備では、選手同士の接触がまれに起きる。特に経験の浅い子どもたちは、そのリスクが大きい。
野手の中間にフライが上がった場合、野手同士が衝突しないように、「オーライ!」などと捕球する側が声を出して一方を制する。だが、2人とも自分が捕球しようと「オーライ!」と声を出し続けて、そのままぶつかってしまうこともある。そんなリスクを避けるため、スネークスでは「風汰が大声を出したら風汰に完全に任せる」ことにして、その練習を繰り返した。
スネークスの弓削靖監督が「チームで工夫をすれば、ハンディがあっても野球はできます」と語る通り、サポートを受けながら練習に一生懸命ついていった風汰君。大変だけど、野球は楽しい。学年が上がるにつれ、打撃はこうだ、守備はああだ、なんて大樹さんと“野球談議”を交わす機会が増えていった。「10のアドバイスを送ると、頑張って10すべてをやろうとするのが風汰」(大樹さん)と努力型の性格も奏功して力を伸ばし、5年生になると上級生チームで主軸を任されるようになった。