狭い世界でエリートを目指すより、技術や知見を深めて広く役立てたい、という医師たちが現れ始めた。
「私たちは『医局に入らないと』というプレッシャーをあまり受けない世代だと思います」
淡々と話すのは現在、後期研修医として仙台厚生病院の消化器内科に勤める医師、齋藤宏章さん(29)だ。
齋藤さんは東京大学医学部を卒業後、北海道の北見赤十字病院で初期研修を終え、消化器内科に進むことを決めた。急性期から、がんの治療や緩和を含めた終末期医療まで関われることに惹かれたからだ。後期研修で母校の東大に戻らず、現在の病院を選んだ。研修を受ける上で最も大切なのは「上にどんな医師がいるか」であると考えた。
「東大の消化器内科も優秀な医師が多いですが、私は志望を決めるのが遅かったこともあり、『よく知っている医師』がいるわけではなかった。そうであれば、症例数が多く、内視鏡の治療などをたくさん経験できるところがいいと考えると、東大に戻る理由が見つかりませんでした」
得たものは他にもある。研究者として研鑽(けんさん)を積む時間だ。
「消化器内科医として修練を積むのと並行し、昨年から福島県立医科大学の公衆衛生学講座の院生として臨床や公衆衛生に関わる論文も書いています。博士号を目標に、その過程で指導を受けて臨床研究のノウハウも積んでいける。この自由度の高さは、たぶん医局にはなかったものだと思います」
(編集部・小長光哲郎、ライター・井上有紀子)
※AERA 2020年3月2日号より抜粋