2019年12月、衝撃的なニュースが駆け巡った。抗菌薬が効かない「耐性菌」のために、日本国内だけでも年間8千人以上の人が命を落としているという。耐性菌が増える背景として、「風邪には抗菌薬」の大誤解も無視できない。AERA 2020年1月20日号から。
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昨年12月、国立国際医療研究センター病院(東京)のグループは耐性菌に関する衝撃的な調査結果をまとめ、発表した。
耐性菌によって、国内では年間8千人以上が死亡している可能性がある──。
耐性菌とは、抗菌薬(抗生物質)が効かない、つまり、抗菌薬に耐性を持つ菌のことだ。
調査の対象はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と、フルオロキノロン耐性大腸菌の2種類だ。黄色ブドウ球菌は、我々ののどや鼻、皮膚などにも存在し、食中毒や、にきびやおできなど化膿性疾患を引き起こす。大腸菌は腸内にいる細菌の一種で、下痢などを引き起こす病原性のものもある。それぞれがメチシリン、フルオロキノロンという抗菌薬に対して耐性化したものだ。厚生労働省が全国にある約2千の病院から集めた患者の血液から見つかった菌の検出率のほか、菌血症の死亡率のデータから推計したという。
調査によると、2017年のMRSAでの推計死者数は4224人、フルオロキノロン系に耐性のある大腸菌では3915人だった。これまでも、各地で単発的に耐性菌関連の死亡例がニュースになったことはある。だが、全国でまとまった推計が出されたのは、今回が初めてだ。同病院の情報・教育支援室長、具芳明(ぐよしあき)医師(47)はこう説明する。
「薬剤耐性(AMR)の問題は日本では以前から問題になっていたし、世界的にも増えていると言われていました。医療機関で働いていると、種類も感染も増加しているという感覚があります。対策を進めるためにも、現状把握が必要です」
さまざまな耐性菌から、主要な二つを選んだ。