「MRSAは長い間、薬剤耐性菌の代表のような存在で、減少傾向にはあるものの、数は一番多い。ある意味ポピュラーでよく知られた耐性菌です。平成の歴史は薬剤耐性菌の院内感染対策の歴史でもありましたが、その主なターゲットがMRSAで、これはまず調査の対象とするべき菌でした。一方で、ずっと増えているのがフルオロキノロン耐性大腸菌です」
私たちの体の表面も内部も、さまざまな細菌にまみれている。普段はそれらは私たちの健康に何の問題も起こさないケースがほとんどだ。だが、たとえば、高齢者や小児、あるいは大手術を受けて免疫力が低下している人などが、緑膿菌に感染して肺炎を起こすケースがある。こうした危険な状況を防ぐため、抗菌薬が使われる。だが、この緑膿菌が耐性菌だった場合、抗菌薬が効かないために治療が遅れて肺炎を治すことができず、最悪の場合、死にいたる事態も起こりうるのだ。
AMRの問題は、今の医療界の大きな課題だ。関係者が危機感を募らせている耐性菌は、なぜできるのだろうか。
「もともと世の中にわずかにある耐性菌がスペースのできたところを利用して増えていくのと、抗菌薬を使うことによって突然変異でその耐性菌ができてしまうのとが、耐性菌が発生する主なメカニズムです」(具医師)
例えば大腸菌の場合、一般によく使われるフルオロキノロンという薬剤によって腸の中の菌がダメージを受ける。減ったり、弱ったりしていく菌がある一方で、もともとある、耐性を持った菌はもちろん生き残る。そこで生き残った菌は空いたスペースを利用して勢力を拡大していく、といったイメージだ。
他人からもらう耐性菌もあれば、自分の体の中で変異してしまう耐性菌もある。メカニズムはさまざまだが、基本的には「使いすぎると耐性ができやすい」。つまり、抗菌薬を不必要に使うのは、避けるべきだという。
そして、不必要な抗菌薬処方の、代表的な例は私たちの身近にあった。風邪だ。ウイルスが原因になる風邪に抗菌薬は無用だ。感染症教育を受けた多くの医師も風邪に抗菌薬の効果がないことを知っている。ところが、「風邪には抗菌薬」の誤解は、世間では根強い。