もしあなたが、「風邪やインフルエンザには抗菌薬が効く」と信じ、「早く治したいから抗菌薬をください」と主張すれば、医師も渋々処方するかもしれない。だが、その事実に基づかない不必要な選択が、人の命を奪いかねない耐性菌の増殖と無関係ではないとしたらどうだろうか。

 一昨年2月のインターネット調査によると、「風邪やインフルエンザに抗生物質は効果的」という設問を「間違い」と正しく判断できたのはわずか22.1%。4割以上が効果的と考えていることがわかった。

 風邪に抗菌薬を処方する医師もいる。公益社団法人日本化学療法学会が昨年発行した雑誌に、感冒(風邪)の患者の41%以上に処方する医師が約2割いるというデータがある。

「風邪で抗菌薬が必要だったとされる割合はもっとずっと低く、ある調査ではおよそ7%に過ぎません」(具医師)

 具医師によれば、中途半端な量の抗菌薬を服用するのも、耐性菌をつくるリスクになるという。身に覚えがある人もいるかもしれないが、病院で処方され抗菌薬を飲んでいたが、症状が治まった気がして服用を途中でやめる。別の機会に自分で判断し、残りをなくなるまで飲んでしまう。これも耐性菌をつくるきっかけになるという。

 今回の取材で医療関係者から多く聞かれたのが、「患者から強く求められれば、クリニックなどを経営する開業医は処方せざるを得ない」という声だった。

 だが、啓発を行う医師たちもいる。東京・中目黒。嘉村洋志医師(41)と瀬田宏哉医師(36)が18年に開院した「ロコクリニック中目黒」は、夜間診療などで地元の人たちに重宝されている。開業前に勤務していた病院では、ともに救急医として軽症から重症まで多くの患者をみてきた。2人は口をそろえる。

「抗菌薬は必要とされる細菌性感染症にだけ使うものです」

 ロコクリニック中目黒では、待合室や診察室にAMRに関するパンフレットを置いて、患者の理解を助けている。風邪で抗菌薬の処方を求められるケースもあるが、「不必要と説明します」。場合によっては不要な抗菌薬を欲しがる患者に不満を持たれ、ネットで批判的な口コミを書き込まれることもある。それでも抗菌薬を安易に出さないのは、徹底した考えがあるからだ。嘉村医師と瀬田医師は言う。

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