文部科学省前で、「これ以上混乱させるな」と声をあげた高校2年の男子生徒(右)と、大学入学共通テストへの記述式の導入反対を訴えた教員や予備校講師たち。反対のうねりが見直しにつながった/19年12月6日、東京・霞が関 (c)朝日新聞社
文部科学省前で、「これ以上混乱させるな」と声をあげた高校2年の男子生徒(右)と、大学入学共通テストへの記述式の導入反対を訴えた教員や予備校講師たち。反対のうねりが見直しにつながった/19年12月6日、東京・霞が関 (c)朝日新聞社
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荒井克弘(あらい・かつひろ)/独立行政法人大学入試センター、東北大学名誉教授。東京工業大学博士課程修了、専門は高等教育研究(撮影/大平誠)
荒井克弘(あらい・かつひろ)/独立行政法人大学入試センター、東北大学名誉教授。東京工業大学博士課程修了、専門は高等教育研究(撮影/大平誠)

 2020年度から始まる大学入学共通テストで、英語民間試験に続いて国語と数学の記述式問題の導入が見送られた。「2本柱」を失った政府の入試制度改革はどこに向かうのか。大学入試センターの荒井克弘名誉教授(72)に聞いた。

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 見送りは決まりましたが、従来のセンター試験の内容に戻るのではなく、英語民間試験も記述式問題も復活するための「席」を確保した形で見直しが進んでいることに危機感を覚えます。

 英語は「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測る民間試験活用を前提に、「読む」(リーディング)と「聞く」(リスニング)に特化し、配点も筆記200点、リスニング50点だったセンター試験から、リーディングとリスニングを100点ずつにしました。国語はマーク式の大問四つに記述式の大問一つを加えたことで試験時間を20分延ばすことになっていましたが、これも試験時間を元に戻すのではなく、実用文を用いた大問を一つ加えることを検討しているようです。

 今回の延期、見直しは本質的な議論を踏まえた上で決まったわけではなく、受験生の地域格差や家計負担の問題、採点の公平性が確保できないといった問題がクローズアップされ、なし崩しに進んだだけです。入試改革の本来の目的は、高大接続、つまり高校(中等教育)から大学(高等教育)への進学プロセスを構築し直すための一助だった。それが途中から民間試験や記述式の導入ありきに話がどんどんずれていき、事務局の文部科学省もむしろ高大接続改革から後退する方向に引っ張っていった。

 なぜ、高校と大学の間で「接続」が必要なのか。そもそも専門的、先端的な研究をする高等教育機関と、小中高校の初等中等教育機関は同じシステムに包括されるわけではありません。学校教育法にも、中学校は「小学校における教育の基礎の上に」、高校は「中学校における教育の基礎の上に」と書かれています。しかし、大学の設置目的は「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させること」というものです。

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