一方、「いだてん」の音楽は「あまちゃん」と同様に、ユーモラスでヒューマン、開放的かつ跳躍的なタッチが主軸。オリンピックとスポーツを題材にしたドラマゆえに、当然ながら溌剌としていてフィジカルだ。しかし、それだけではない。「いだてん」の音楽は、多くの人たちと一つの娯楽を観て楽しむことの醍醐味(それはもしかすると失われたロマンのようなものになるのかもしれないが……)や、共有することの豊かさを根底のテーマに持った音楽のように思えるのだ。
例えば3種類のサントラに共通して収録されている「いだてん メインテーマ」ひとつとってみてもそれが伝わってくる。冒頭の華々しいファンファーレは、「オリンピック東京大会ファンファーレ」(作曲・今井光也)への現代からの返答のよう。かと思えば、シンコペーションを多用した最初の疾走感あるメロディーは、「荒野の七人」のような、かつて日本でも人気を博した西部劇映画や海外ドラマのテーマ曲を想起させる。まさに先の東京オリンピック前後の時代、1950~60年代の映画やテレビへの遠い記憶をかき立てられる人も少なくないのではないか。
他方、「よ~お!」という囃子詞や拍子木の挿入や鼓の使用から能や歌舞伎を連想したり、三味線から義太夫や文楽を思い浮かべたりする人もいるだろう。主役の一人が歌舞伎役者である中村勘九郎であることも無関係ではないだろうが、日本の伝統的な大衆娯楽への敬意を演奏やアレンジから感じとることもできる。
また、中盤の展開でブラジルのサンバのリズムを取り入れている箇所からは、ドラマの舞台の一つともなっている浅草のサンバカーニバルとのシンクロを見て取ることもできるだろう。劇中で狂言回しのような役割も担う古今亭志ん生の拠点でもある浅草は、かつては大衆演芸の中心地でもあった。
中盤から終盤にかけてはディスコ時代に大ヒットした「ジンギスカン」(1979年)の“ウー、ハー”という掛け声や、日本でも今や年末の風物詩のようになったベートーベンの「第九」のような男女混声合唱もそこに加わっていく。国境や世代に関係なく、声を出して体を動かす心地よさを通して、スポーツという一見すると音楽とは接点がないような文化と見事につなげてみせた。