「確かに、部活動の終了時間の延長の要望は多く、市内に延長を認める高校も多いことから、延長を提案することは妥当である。しかし、通学路は道幅も狭い上に午後六時前後の交通量が特に多いため、安全確保に問題があり、延長は認められにくいのではないか。(118字)」

 これに対し、前出の国語科教員はこう分析する。

「条件に誘導されて自由な発想を制限されていて、思考力や判断力、表現力を高めるはずの共通テストの導入目的が損なわれる恐れがあります。もし自由記述式で私が模範解答を作るとしたら、『下校時の安全確保に問題がある』というシンプルなものになります」

 資料の読解についてはさらに問題があるという。

「部活動の終了時間の延長の要望は28通で、これは意見の総数やほかの要望と比べて決して『多い』とは言えないはず。それを『多い』と読み取らせるのは、解釈を強制する思想誘導です。複数の資料は扱い方によっては生徒の視野を広げるいい問題も作れますが、複数の資料ありきの無理な作問は、本来の資料の持つ多義性を縛り、質の低下を招きます」

 形にとらわれ、目的を見失っているのは国語ばかりではない。18年度の数学のプレテストに顕著に表れている。学校の階段の踏面の範囲を求めるこの問題の正答例は一つだが、これについて予備校数学講師の中村拓人さんは疑問を投げかける。

「これほど単純に見える問題でも、正答の書き方は様々です。『≦』を国際的には一般的な、<の下にイコールの代わりに一本線を引く書き方にした場合や、tan°33の代わりに、三角比の一つであるコタンジェントを用いる書き方などは、高校の教科書に載っていないので、不慣れな人が採点したときに、書き間違いとしてバツにされる恐れがあります。他の解答のように『°33の三角比を用いて』という指示に従っていないものや、問題文の解釈が不十分なものは、どのように採点されるのでしょうか。数学的には誤りとは言えない解答をバツにするのは、記述式の本来の良さでもある解答の自由度を下げることになります」

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