ほかにも、社内で恋人や結婚相手を見つけることを「社内調達」、職場内不倫カップルが仕事後にあいびきすることを「残業」、失敗ばかりの新人のことを「留年」と呼んでいるという声も。「留年」の隠語が使われている、都内の大手メーカーの男性社員(25)は言う。

「入社5年目でも、2年目くらいの働きだな、と思う部下を『留年生』と言う人はいます。でも、心の底からできないと思っての悪口ではなくて、まだ成長の余地があるよね、という意味あいもある。愛情というか、悪口と半々というか」

 心理学者で立正大学客員教授の内藤誼人(よしひと)さんは、隠語が職場で飛び交う背景には、人間の特権意識があると指摘する。

「王族などの上流階級の英語と一般に使われる英語が違うように、言葉には一種の階級意識が表れやすい。『私たちは他のグループとは違う』という意識を持ちたいと、隠語が生まれるのです。共通点があれば、人間はより親しくなります。同じ隠語を使うことで、親密度を高め合い、仲間である安心感も得られる。言葉に対する同族意識が強いのです」

 がゆえに、隠語の使い方がうまい人は仲間意識を強めるのに長けており、「人気者になるケースも多い」と、内藤さんは付け加える。

 権力や恋愛のような属性にこだわらない、一風変わった隠語もある。

■山根流の上司と部下

 昨年、疑惑の「奈良判定」でボクシング業界だけでなく世間を大きく賑わした「男・山根」こと山根明・日本ボクシング連盟前会長(79)を覚えているだろうか。時に純白のド派手なスーツを着こなし、サングラスをかけたちょっぴり強面の佇まいで、男気あふれる「山根節」を連発。9月3日にはプロの新団体設立の会見を行うなど、精力的に活動を続けている。

 その「山根会長」が複数の職場に出没しているという。

<うちの社長にそっくり。こっそり、山根会長と呼んでいる>
<上司のあだ名が山根会長になった>

 そんな隠語が、ネット上でまことしやかに囁かれている。トップダウンな職場に多いようで、なかには「独裁的に振り切っている人」「権力をふりかざす上司」を山根会長にたとえる人もいた。

 騒動からおよそ1年が経ったいま、見知らぬ職場で自身の名前が飛び交っていることを、本人はどう感じているのだろうか。山根前会長に電話をかけてみた。

 名曲「ゴッドファーザー 愛のテーマ」のコール音が流れたあと、山根会長はゆっくりとした口調で答えてくれた。

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