「私が学校に損害を与え懲戒処分を受けるようなことをやったとか、学校経営が厳しいとか、合理的な理由があれば納得できたかもしれません。しかしそれもなく、あまりに一方的です」

 男性は労働組合「私学教員ユニオン」(東京)に加入し、1月から学校側と団体交渉を重ねてきたが平行線だった。5月下旬、同じく3月いっぱいで同校を一方的に雇い止めされた30代の男性教員と共に学校を提訴。使い捨てを前提にした体質をなくし、教育の現場を少しでもよくしたいと話す。

 同校を運営する学校法人は代理人弁護士を通じて、本誌の取材にこう回答した。

「現在係争中の裁判に関連する事項であり、学園としては司法の判断を仰ぐことを最優先と考えております。専任教員としての資質等を慎重かつ適正に判断させて頂いた結果について、原告側に理解して頂けなかったことは大変遺憾に思っております」

 私立高校は全国に約1300校ある。公立高校とは違い、各校が建学の精神に基づき、先進的で独創的な教育を展開できるという特徴がある。

 その教育の担い手となる教員がいま、不安定な雇用や低賃金に苦しんでいる。格差社会の象徴ともいえる非正規の教員が増えているからだ。

 4月には、横浜市の中高一貫の学校法人が6年間で72人の雇い止めをしたことも判明し、問題になった。

「私学は民間企業と同じ営利目的。その搾取構造が露骨になってきています」

 と話すのは、私学教員ユニオン代表の佐藤学さん(32)だ。

 佐藤さんによれば、私立の教員は、冒頭の学校の例で説明したように専任教員を頂点とするピラミッド構造になっている。専任の門戸は狭く、非正規雇用は教員全体の4割近くを占め、公立校の倍近いという。

「構造は、一般企業が雇用の調整弁として非正規雇用を増やしていったのと同じ。景気の変動や経営状態にあわせ、バッファー(緩衝材)として使える非正規雇用が世の中に拡大していったのと軌を一にしています」(佐藤さん)

 昨年4月に発足した同ユニオンには毎月10件ほどの相談がくる。20代、30代の非正規雇用の私立校の教員が中心で、雇い止めや残業代不払い、長時間労働、精神疾患に追い込まれた教員もいるという。(編集部・野村昌二)

※AERA 2019年7月22日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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